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掲載日:2023年1月16日
この記事はニュースレター第10号(平成23年1月発行)に掲載したものです。
川の水をくんでいる人が「水質調査をしています」と言っていました。これは一体何を調べているのですか?
水環境担当 池田 和弘
水質調査は、公的機関、大学などの研究者、浄化活動をされている県民の方々などにより、様々な目的で行われています。ここでは、埼玉県が水質汚濁防止法に基づいて行っている調査について説明します。
県内の主な河川や湖沼(44河川2湖沼において計98地点:地点の詳細は、埼玉県水環境課ホームページをご覧ください。)について、定期的に水質調査を行い、環境基準が維持達成されているか監視しています。環境基準とは「人の健康を保護し、生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」です。埼玉県ではこれら基準の定められている項目を中心に表に示す項目の測定を行っています。太字は河川において環境基準が定められている項目です。全窒素や全リンは湖沼・海域に適用される基準項目で、河川には適用されません。これは、全窒素、全リンが過剰となると水の動きの少ない水域で植物プランクトンが異常増殖しやすく、水道水をつくることの障がいとなるため、特に湖沼・海域でその濃度を抑える必要があるからです。
水質調査では、写真1や2で示すように、橋の上から採水容器を投入するか、直接川に入って、原則として流れの真ん中から採水を行います。採水現場で機器を使って水質計測している姿を目にするかもしれません(写真3)。これは、溶存酸素濃度と水温を測定しています。透視度(写真4)も現場で測定します。分析項目は多数ありますが、そのうち採水現場で測定できるものはわずか6項目です。残りの項目はガラスビンやポリビンなどの適切な容器に採取し、実験室で必要に応じて前処理し、機器分析などで定量を行います。測定は分析する人、機関による違いを避けるため分析項目ごとに定められた方法(公定法)で行います。例えば、湖沼におけるCODの測定は日本工業規格K0102の17に定める方法(100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素消費量)で行うことになっており、それ以外の方法による測定は認められていません。
区分 |
項目数 |
項目 |
---|---|---|
観測項目 |
5 |
気温、水温、色相、臭気、透視度 |
健康項目 |
27 |
カドミウム、全シアン、鉛、六価クロム、砒素、総水銀、アルキル水銀、PCB、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,3-ジクロロプロペン、チウラム、シマジン、チオベンカルブ、ベンゼン、セレン、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素、ふつ素、ほう素、1,4-ジオキサン |
要監視項目 |
28 |
クロロホルム、トランス-1,2-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロプロパン、p-ジクロロベンゼン、イソキサチオン、ダイアジノン、フェニトロチオン、イソプロチオラン、オキシン銅(有機銅)、クロロタロニル、プロピザミド、EPN、ジクロルボス、フェノブカルブ、イプロベンホス、クロルニトロフェン、トルエン、キシレン、フタル酸ジエチルヘキシル、ニッケル、モリブデン、アンチモン、塩化ビニルモノマー、エピクロロヒドリン、全マンガン、ウラン、フェノール、ホルムアルデヒド |
生活環境項目 |
10 |
水素イオン濃度(pH)、溶存酸素量(DO)、生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、浮遊物質量(SS)、大腸菌群数、ノルマルヘキサン抽出物質(油分等)、全窒素、全りん、全亜鉛 |
特殊項目 |
5 |
フェノール類、銅、溶解性鉄、溶解性マンガン、クロム |
その他の項目 |
13 |
アンモニア性窒素、硝酸性窒素、亜硝酸性窒素、有機性窒素、りん酸性りん、有機体炭素(TOC)、濁度、導電率、硬度、塩化物イオン、陰イオン界面活性剤(MBAS)、トリハロメタン生成能、クロロフィルa |
写真1 橋の上からの採水
写真2 川に入っての採水
写真3 溶存酸素濃度の測定
写真4 透視度の測定
水質環境基準が設定されている項目を中心に少し詳しく解説しましょう。
健康項目には、カドミウムなどの重金属やジクロロメタンなどの有機塩素化合物など27項目あります。基本的に長期間飲み水などとして摂取し続けても健康影響が出ないよう基準は設定されています。例えばフッ素は長期間過剰摂取すると歯に褐色の斑点ができる斑状歯を引き起こす可能性があります。基準はこれを予防する観点から0.8mg/Lに設定されていいます。アルキル水銀やPCBのように生物濃縮しやすいものに対しては、食事からの摂取も抑制されるよう考慮されています。なお、全シアンについては、急性の中毒を引き起こす可能性があるので、一回水を飲んだときに問題が起こらないよう基準が定められています。
要監視項目とは、人の健康の保護や水生生物保全に関連する物質ですが、公共用水域などにおける検出状況などからみて直ちに環境基準項目とはせず、引き続き知見の集積に努めるべき物質です。収集した知見などから平成21年11月には要監視項目であった1,4-ジオキサンが健康項目に指定されました。
生活環境項目には、有機汚濁の代表的指標である生物化学的酸素要求量(BOD)など10項目あります。人が利水活動を行うためと、魚などの水生生物を保護するため基準が設定されています。基準は、飲み水、水浴、水産、農業に利用すること、また日常生活に不快を生じさせないことなどを考慮して定められています。このため、水域の利用目的、水質汚濁の状況、水質汚濁源の立地状況などに応じて指定された水域類型ごとに異なった基準が適用されます。
このほか、透視度、水温などの測定や流量観測を行い、採水時の河川の状況を把握し、また地点の流域特性に応じた項目の測定を行っています。各項目の詳細については、埼玉県水環境課ホームページ(PDF:387KB) などもご覧ください。
平成21年度においては、健康項目は測定を行なった93地点すべてで環境基準を達成しました。生活環境項目のうちBODの基準達成率は類型指定されている34河川44水系に対し86%であり、全国平均と同じ程度となっています(図)。では、問題は全くないのでしょうか。県内には「硝酸性窒素と亜硝酸性窒素」がかなり基準値にせまっている河川があります。県外では平成21年度には千葉県の2地点で、平成20年度には千葉県と群馬県あわせて4地点で基準を超過しています。硝酸性窒素と亜硝酸性窒素の由来は、排水中にそのものが含まれる場合と肥料や排泄物中の有機態窒素が環境中で分解されてつくられる場合があります。汚染水を人が飲んだ場合、特に乳幼児にメトヘモグロビン血症を発症するおそれがあります。これらの物質を低減するためには、農用地への過剰な施肥を防ぎ、家畜排せつ物を適正に処理することも求められています。
図 埼玉県におけるBOD基準達成率
環境基準は、現に得られる限りの科学的知見を基礎として定められているものであり、常に新しい科学的知見の収集に努め、適切な科学的判断が加えられていかなければならないものとされており、測定項目も将来においては追加、変更されることが予想されます。特に近年は水への親しみや生態系保護を視点に取り入れた基準の策定が検討されています。
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