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掲載日:2023年1月24日
この記事はニュースレター第37号(平成29年11月発行)に掲載したものです。
富士山頂で空気を調べると何が分かるの?山頂の空気は地上の空気と何が違うの?
大気環境担当 米持 真一
世界文化遺産にも登録された富士山は、日本人なら誰でも知っている標高3,776mの日本一高い山です。
標高約2,500m付近から上部の大気は、地上の大気汚染の影響を受けにくく「自由対流圏」と呼ばれます。また、富士山は日本アルプスなどとは違い、山脈には属さない「独立峰」と呼ばれる形をしており、大気汚染などを観測するタワーと考えることもできます。
当センター(加須市)では、夏の間、富士山頂(旧富士山測候所、図1)で、微小粒子状物質(PM2.5)を調べています。これは、富士山頂では中国大陸などから長距離を運ばれてくる大気汚染物質を調べることができるためです(図2)。
図1 富士山頂の観測地点
図2 富士山頂で空気を調べると
埼玉県をはじめ、日本全国で大気汚染の常時監視測定が行われていますが、測定局は私たちの生活している地上にあるため、上空の大気については、まだ十分には分かっていません。
そこで当センターでは、2010年から富士山頂で大気汚染の調査研究を開始し、2015年にはPM2.5を自動的に採取する装置を設置しました。2015年と2016年は1日単位で、2017年は昼と夜の12時間単位で、夏の1ヶ月間PM2.5を採取し、PM2.5に含まれる化学成分の分析を行いました。
地上のPM2.5濃度が増加した、2015年の夏の1ヶ月間の平均濃度は、当センターでは14.6 µg/m3であるのに対して、富士山頂では2.6 µg/m3と5分の1程度でしたが、化学分析の結果、石炭の燃焼によって大気中に放出されるいくつかの元素の比率が高まる期間があることが分かりました。この元素の一つにヒ素(元素記号:As)があります。
このことは、石炭消費量の多い中国等の空気が富士山頂まで運ばれていた可能性を示しています。更に、富士山頂でヒ素の比率が高まった期間のいくつかは、加須でも同様にヒ素の比率が高まっていました。このことから、地上の空気にも影響していた可能性が考えられます。
夏の大気汚染は、地上付近で発生する光化学スモッグがよく知られていますが、このように富士山頂(上空)と地上とで同時にPM2.5を調べることで、今までよく分からなかったことを少しずつ知ることができます。また、この観測は、大気の流れの上流側にある、韓国最高峰のハルラ山(済州島)や中国の大都市でも同時に行っています。
なお、旧富士山測候所は、大気や気象の研究者を中心とするNPO法人(富士山測候所を活用する会)が夏の間だけ管理しており、大気汚染だけでなく様々な科学研究に活用されています。(http://npo.fuji3776.net/)
さて、富士山は大気汚染の観測に適していますが、気圧は地上の約3分の2で、日本で最も高山病になりやすい山でもあります。また、夏であっても天候が悪ければ、気温は冬並になることもあります。登られる際は、十分に気をつけましょう。
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