環境科学国際センター > ココが知りたい埼玉の環境 > 川が赤色やオレンジ色に着色する現象は?
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掲載日:2022年11月2日
この記事はニュースレター第28号(平成27年7月発行)に掲載したものです。
川が赤色やオレンジ色になっています。塗料が流れているのではないですか。心配です。
水環境担当 池田 和弘
川が着色していると塗料のような化学物質の流入が疑われます。この場合、河川の景観は著しく悪化し、含まれる有害物質による生態系や人の健康への悪影響が懸念されます。そこで異常水質事故として関係機関で連携して原因を調査し、対策することになります。ところが着色現象を引き起こした犯人は実は生物だったという事例も多くあります。今回は、生物に起因する河川の景観悪化現象について紹介し、皆さまの疑問・心配にお答えします。
平成22年の夏は晴天がつづき、8月は記録的な高温が続き、30年に1度の猛暑となりました。このとき、河川水が赤色、オレンジ色、黄色に染まるという着色による異常水質事故の通報が相次ぎました。現場を調査すると、確かに河川が数100mに渡り衝撃的な色に染まっていました(図1左)。見ると表面付近に何かが浮いており、これが色を持つようでした。そこで、採水した試料を持ち帰り顕微鏡観察を行なったところ、大きさが約0.1mmの多数の緑色の球体が見え、中に赤色の塊が観察されました(図1右)。球体でなく、紡錘形や楕円形のものあり、それらは動いています。これは、ミドリムシの一種でユーグレナ・サングイネア(以下ユーグレナ)という微生物でした。ユーグレナは鞭毛運動するので動物的でありながら、葉緑体を持ち光合成を行うため植物的でもある面白い微生物です。葉緑素という緑の色素とヘマトクロームという赤い色素をもち、細胞内の色素の分布によって鮮やかな赤色になったり、緑色を帯びたりします。水面に赤い膜を生じさせることもあるので、アカマクミドリムシとも呼ばれます。河川の着色はこの微生物が原因となることもあるのです。
ユーグレナによる着色現象は田圃や池沼ではよく観察されることでしたが、河川でこれほど大規模に発生した事例はこれまで報告がありません。何が原因なのでしょうか。晴天が続き、水温が高いことが増殖に好条件であったこと、また、河川の流量が少なく、水が滞留し池の様になったのが一因と思われます。さらに重要と考えられるのは、河川の栄養塩(窒素やリン)濃度が高いことです。ユーグレナは高い栄養塩濃度を好みます。つまり、河川が生活排水で汚染されると増殖に好都合なのです。図2に埼玉県内河川の栄養塩濃度を示します。河川のリン濃度は100μg/Lを超える地点が多数あります。これは、湖沼の富栄養度でいえば、過栄養に分類される濃度です。つまり、これらの河川の水が湖沼のようによどめば、ユーグレナが大発生する可能性があると考えられます。ユーグレナによる着色現象を防ぐには栄養塩管理が必要です。
着色が塗料ではなく、ユーグレナが原因なら、直ちに健康被害を心配する必要はないでしょう。しかし、大発生した場合、ユーグレナ自体が有機汚濁源となるので、河川環境への悪影響が懸念されます。状況によってはBOD値が高くなり、溶存酸素濃度が低下し、生活環境が悪化する可能性があります。また、我々の調査によると、ユーグレナが分解すると大量の有機物を放出することが分かりました。この有機物の水環境への影響は十分には分かっていないため、今後の調査が必要です。
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