環境科学国際センター > ココが知りたい埼玉の環境 > 埼玉県ではニホンジカの食害による生態系への影響は現れているの?
ここから本文です。
ページ番号:53087
掲載日:2023年1月24日
この記事はニュースレター第27号(平成27年4月発行)に掲載したものです。
埼玉県ではニホンジカの食害による生態系への影響は現れているの?
自然環境担当 三輪 誠
埼玉県に生息するニホンジカは、江戸時代までは平野部にまで広く分布していましたが、明治時代以降の乱獲により生息域が狭まり、昭和30年代までは、埼玉県西部の秩父地方の限られた地域にしか生息していない状況でした。しかしながら、その後、徐々に生息域を拡大し、昭和50年代になると秩父地方全域で、平成10年代には丘陵部でも生息が確認されるようになりました。この原因のひとつとして、狩猟者が減少・高齢化し、ニホンジカの捕獲を行う担い手の不足があげられます。生息域拡大にともない、農林業被害や生態系への影響が深刻な問題となってきました。
このような状況から、ニホンジカが農林業や生態系に及ぼす影響を軽減し、人間とニホンジカとの共生を図るために、埼玉県では、平成18年度から特定鳥獣保護管理計画(ニホンジカ)を策定し、被害対策や、狩猟、有害鳥獣捕獲などを実施してきました。これにより、農林業被害はある程度抑制されてきたものの、天然林を中心とした生態系への影響は、依然として大きな問題となっています。
環境科学国際センターでは、平成12年から現在に至るまで、埼玉県奥秩父にある雁坂峠周辺で、シラビソやオオシラビソなどから構成される亜高山帯森林における環境調査を実施してきました。調査地のある雁坂峠付近へは登山道を歩いて登りますが、その周辺では、ニホンジカの食害の結果として、ハシリドコロやトリカブトといったニホンジカの好まない有毒植物だけの植生になってしまった林床が所々に観察されます(図1)。
図1 ニホンジカの好まない有毒植物だけの植生となった森林の林床
また、雁坂峠付近の調査地では、ニホンジカの食害による劇的な森林の変化を目の当たりにしました。その一例として、図2に、平成16年から平成26年の10年間に調査地で経年的に撮った定点写真を示します。なお、各写真の画角は異なりますが、各写真の中で測定器が括り付けてある樹木が基準となる樹木です。
この調査地では、平成18年頃までは全くニホンジカの食害はなく、健全な樹木が生育していました。そのため、森林の内部にも樹冠を通して木漏れ日が入る程度で、林床は薄暗い状況でした。しかしながら、平成19年頃からニホンジカの食害による樹皮剥ぎの被害が始まり、平成21年には調査地周辺が広範囲にわたってその被害を受けました。その結果、それ以降、被害を受けた樹木は徐々に衰退し、平成24年には立ち枯れする樹木が目立つようになりました。これにともない、林床も健全な森林だったときに比べてかなり明るく感じられるようになりました。平成26年には、被害を受けたほとんどの樹木が立ち枯れし、林床は明るくなり、ササが繁茂するまでになってしまいました。
このように、奥秩父の森林生態系では、ニホンジカの食害による大きな影響が現れています。今後は、このような奥山の生態系や生物多様性への影響対策が必要と考えられます。
図2 奥秩父雁坂峠付近の亜高山帯森林におけるニホンジカの食害にともなう森林の経年変化
お問い合わせ
より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください