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掲載日:2023年1月24日
この記事はニュースレター第35号(平成29年1月発行)に掲載したものです。
埼玉県の川の水は、昔に比べてきれいになっているのですか?
前研究所長 木幡邦男
川の水中には、25℃で約8mg/L(mg/L; 1リットルあたりの重さmg)の酸素が溶けていて、これにより水界の動物は呼吸しています。溶存酸素が低下すると、魚介類や動物プランクトンなどの生存が危ぶまれ、2mg/L以下では多くの動物が死滅します。酸素は、大気から、また植物の光合成によって供給されますが、一方、水中の動植物の呼吸や、微生物による有機物等の分解により消費されます。消費のほうが多ければ、溶存酸素が低下することになります。
河川中にみられる有機物には、植物の葉・茎や魚介類の死骸など自然由来のものの他に、人の生活から出る排水による食品屑、油や洗剤など様々なものがあります。これらは有機汚濁とよばれ、日本では、河川の有機汚濁の程度を表す指標として、BOD(生物化学的酸素要求量)が用いられます。BODは、水中の有機物などの酸化分解のために微生物が必要とする酸素の量を表したもので、この値が大きければ有機汚濁の程度が高く、特に、上記の溶存酸素よりも大きい場合には、河川水中の酸素を使い尽くすことも考えられ、河川環境は劣悪といえるでしょう。
日本でBODが河川水質汚濁の環境基準として設定された昭和45年(1970年)から近年までの、埼玉県の主要な河川におけるBOD値の推移(図1)をみると、大きく値が減少し、近年では5mg/Lを下回ることが分かります。全国的におおむねこのような傾向にあり、このことだけをみれば、川の水は昔に比べてきれいになったといえます。
しかし、環境省が平成18年度に行なったアンケート調査(注1)によると、国民の多くは川の環境に満足していませんでした。当時50才以上の方々は、過去の劣悪な環境を御存じのため、昔に比べ良くなったという評価が多かったのですが、若い世代では厳しいご意見が多くみられました。この原因は、住民の皆さまはBODでみた河川水質だけを評価対象としているのではなく、水面や河岸のゴミ、水の色、匂いなど様々な観点で評価しているためでしょう。
川の水の着色(注2)や匂いの原因の一つとして、植物プランクトンが大量に増殖することが挙げられます。良く問題にされるアオコもこの一種です。植物プランクトンは、陸上の植物と同様に窒素やリンなどを栄養として必要とします。富栄養化といわれる窒素やリンといった栄養塩が水中に高濃度にある状態になると、この大量増殖に繋がります。排水を処理する下水道や浄化槽などが整備されてきたことで、水中のBODは大きく減少しました。しかし、排水処理施設で栄養塩を十分に除去するのは難しいため、現在、県内の河川水中の栄養塩濃度は高い状態にあり、特に堰などで水が滞留する場所では植物プランクトンの大量増殖が起こり、そのため環境が悪化する現象がみられます。
最近では、栄養塩も除去できる高度処理型の排水処理施設が普及し始めました。今後、良好な河川環境を得るためには、今までの排水対策の推進(注3)とともに、栄養塩の管理にも一層の配慮が必要でしょう。
注1 環境省報道発表資料 平成18年度環境モニター・アンケート「水辺環境について」の調査結果、http://www.env.go.jp/press/8199.html
注2 本ニュースレター 第28号、ここ知り
注3 本ニュースレター 第17号、ここ知り
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