環境科学国際センター > ココが知りたい埼玉の環境 > 捕まえなくていい水生生物調査法があるって本当ですか?

ここから本文です。

ページ番号:219578

掲載日:2023年1月24日

捕まえなくていい水生生物調査法があるって本当ですか?

この記事はニュースレター第56号(令和4年7月発行)に掲載したものです。

Question - 質問します

捕まえなくていい水生生物調査法があるって本当ですか?

Answer - お答えします

水環境担当 木持 謙

例えば魚からは、糞などを通じてその魚のDNAが水中に放出されます。環境中を漂う生物の遺伝子なので“環境DNA”と呼ばれ、水環境には多種多様な生物の環境DNAが存在します。そして、1リットル程度の川の水をくんで環境DNAを分析することで、採捕調査をしなくても、どんな種類の生物がいそうか、あるいは目的の生物(例えばアユ)がどのくらいいそうか、などを調べることができます。

きれいになった埼玉の川と次のステップ

本県の河川水質はかつてに比べて大きく改善しており、生物多様性の保全・修復も重要となっています。本県では、生息生物相に基づく新しい水環境総合指標(健全性・安全性指標)の導入などが検討されており、水圏生態系を構成する様々な動植物の中から指標となる種を設定する必要があります。こうした方向性も視野に入れ、第5次埼玉県環境基本計画の新規施策・取組では、「水辺空間の生き物に関する情報収集・発信(新規)」と記載しています。また、希少生物の保護保全や外来生物対策といった重要課題も含めて対応するためには、対象生物の生息実態の正確な把握が不可欠です。

水質分析による生物調査と今後の展開

生物調査といえば、これまでは網や罠等を用いた捕獲が中心でした。しかしながら捕獲調査は、多くの人員・時間を要する上、結果が調査者の技術に依存する可能性や生息環境を荒らす恐れ(特に希少生物調査)がありました。近年、環境DNA分析による魚類等の生息状況調査技術が急速な発展を遂げています。糞や代謝物等を通じて生物から放出されて環境中に漂う遺伝子(環境DNA)を分析することで、そこに生息する生物の種類や調査対象生物の在不在が分かる技術で、河川などで1リットル程度の水をくみ、中に含まれているDNAを分析します。環境DNA分析では、ある生物群(例えば魚類相)の分布状況、特定の種(例えばアユ)の分布・生息密度、といったことを調べることができ、それぞれ「網羅的解析」、「種特異的解析」とも呼ばれます。今回は網羅的解析について紹介します。県内河川の魚類相把握のため河川常時監視地点延べ62か所で魚類環境DNA調査を2018年から実施中です。これまでに69種(排水など由来とみられる純海水魚を除く)の魚類DNAが検出されており、地点ごとのDNA検出魚種データを基に、各魚種のDNA検出状況マップを作成しました。例としてアユDNA検出状況を図1に示します。環境DNA分析から、県内に広くアユが分布していることがわかりました。ところが環境DNA分析にも課題はあります。DNA検出=生息とは限らないため結果の精査が必要です。しかし、解決方法があります。表1に環境DNA分析と採捕調査の比較を示します。2つの手法は長所・短所がほぼ正反対のため、両手法を併用することで生物調査の大幅な効率化・高精度化が期待できます。例えば、季節ごとに環境DNA分析、数年おきに採捕調査をすることが考えられます。両者の活用により、指標生物選定や希少/外来生物への対応に加えて、河川改修時の生息生物調査といった施策などへの貢献も期待できます(希少種の扱いはDNA検出地点の公表方法など慎重な検討が必要)。今後、協働機関でのパネル展示、イベントやシンポジウムでの発表、河川愛護団体のフィールド活動での活用など、積極的に地域のみな様と協働・情報発信していきます。

検出された地点を表した埼玉県地図

図1 県内河川におけるアユDNA検出状況

環境DNA分析と採捕調査の長所、短所を表した図

表1 環境DNA分析と採捕調査の比較

 

お問い合わせ

環境部 環境科学国際センター 研究推進室 水環境担当

郵便番号347-0115 埼玉県加須市上種足914 埼玉県環境科学国際センター

ファックス:0480-70-2031

より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください

このページの情報は役に立ちましたか?

このページの情報は見つけやすかったですか?