環境科学国際センター > ココが知りたい埼玉の環境 > 「石綿」ってどんなもの?
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掲載日:2023年1月16日
この記事はニュースレター第13号(平成23年10月発行)に掲載したものです。
古くなって取り壊した建築物から石綿(いしわた・せきめん)が飛散していると聞きましたが、これは一体どんなものですか?
体に良くないものですか?埼玉県内では、どれくらい飛散しているのですか?
大気環境担当 佐坂 公規
石綿(いしわた・せきめん)は、天然に産する繊維状の結晶鉱物の総称で、アスベストとも呼ばれます。法律では「いしわた」と読み、白石綿とも呼ばれるクリソタイル(写真左)、青石綿とも呼ばれるクロシドライト(写真中)、茶石綿とも呼ばれるアモサイト(写真右)のほか、アクチノライト、アンソフィライト及びトレモライトの6種類が石綿に指定されています。また、国際労働機関(ILO)や米国環境保護庁(EPA)でも、国内と同じく、これら6種類に分類しています。
写真 国内で使用された主な石綿
(左:クリソタイル、中:クロシドライト、右:アモサイト)
石綿の主な特性を表に示します。石綿は安価で、安定性や加工性、親和性などの材料特性にも優れており、「魔法の鉱物」・「奇跡の鉱物」として重宝され、戦前から船の機関室などで使用されていました。戦後、各種建材用を中心に様々な用途で使用量が急増し、1970~80年代にかけて使用のピークを迎えますが、以降は減少に転じ、現在は原則使用が禁じられています。
石綿は長く建材等に使用されてきたため、老朽化した建築物を解体した際、周辺にお住まいのかたが飛散した石綿にばく露されるおそれがあります。
耐火性・電気絶縁性を有する |
燃えない、電気を通さない |
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耐薬品性・耐熱性・耐候性に優れる |
薬品や熱に強く長持ちする |
引張強さ・可撓性・耐磨耗性に優れる |
切れにくく、摩擦に強い |
加工性・親和性に優れる |
加工しやすく、他の材料ともなじみやすい |
経済性に優れる |
安価である |
国内で使用された石綿の9割以上はクリソタイルで、残りの約1割をクロシドライトとアモサイトが占めています。これらは、主に耐火・断熱・防音を目的とした建材(吹付け材、屋根材、内・外装材など)として用いられました。その中でも、吹付け材に含まれる石綿は劣化に伴って容易に粉じんとなって飛散し、長時間空気中を浮遊することが知られています。このような石綿を人が吸入すると、その一部は痰(たん)に混じって体外に排出されます。しかし、肺の深部まで入り込んだ石綿は、分解・排出されることなく体内にとどまり、石綿肺や中皮腫、肺がんといった疾患の原因になると考えられています。
図1に石綿が原因となって発症する主な疾患と部位を示します。こうした疾患は、石綿ばく露から発症までの期間(潜伏期)が長く、治りにくいものが多いのが特徴です。
石綿肺は、石綿を大量に吸入することで肺が線維化する疾患(じん肺の一種)です。線維化により肺組織の柔軟性が失われると、呼吸機能の低下が生じます。この疾患は10年以上石綿を吸入した労働者に多く見られ、ばく露から15~20年の潜伏期ののち発症することが知られています。中皮腫は、肺を包む胸膜や消化器を包む腹膜などの表面にある中皮細胞の悪性腫瘍で、大部分は石綿ばく露が原因と考えられます。この疾患は、若い時期に石綿を吸入した人のかたが発症しやすく、20~50年程度と非常に長い潜伏期を経て発症することが知られています。肺がんは喫煙者に多い疾患ですが、石綿ばく露を伴うと発症率が相乗的に高まることが知られています。石綿が原因となる肺がんの多くは15~40年程度の潜伏期を経て発症します。また、ばく露量が多いほど発症率が高まることから、比較的高濃度の職業性ばく露が関係していると考えられます。
石綿の発がん性については、国際がん研究機関(IARC)でGroup1(人に対して発ガン性がある)、米国毒性プログラム(NTP)でa(人に対する発がんの十分な証拠がある)、日本産業衛生学会で1(人に対して発がん性のある物質)といった評価がなされています。一方で、石綿ばく露による悪性中皮腫や肺がん発症のしくみは、まだ詳細には解明されておらず、ばく露のレベルや期間がどの程度発症に結びつくかは明らかではありません。
このほか、石綿ばく露が原因となる胸膜疾患としては良性石綿胸水やびまん性胸膜肥厚などが挙げられます。
図1 石綿が原因となって発症する主な疾患と部位
〔石綿と健康被害(第5版,2010)、独立行政法人 環境再生保全機構より〕
石綿を扱う労働者が石綿肺を発症する事例は、1930年代の後半に報告されていました。その後、1950年代には肺がんや中皮腫を発症するという疫学的報告がなされ、1970年代には発がん物質として世界的に認められるようになりました。
こうした流れを受け、世界的に石綿使用の削減・禁止が進められてきました。国内においても、石綿の法規制は「労働者の健康障がいの予防」から「一般環境の保全や環境被害の防止」へと段階的に拡大・強化され、現在、石綿を含む製品の製造・使用は禁止されています。また、過去に使用された石綿についても飛散のおそれがある場合には、除去や封じ込め、囲い込み等が義務付けられています。例えば、吹付け石綿が使われている建築物を解体する場合には、作業者の安全対策を実施するとともに、十分な飛散防止対策を講じることとされています。さらに、飛散性の石綿を含む廃棄物は、通常の産業廃棄物よりも厳重な管理が必要な特別管理産業廃棄物に指定されており、適正に処理することが義務付けられています。
これらの義務が正しく履行されていることを確認するため、県(政令等により事務を委任している市を含む)では、飛散性石綿を使用している一定規模以上の建築物の解体等工事に立入検査を実施しています。また、こうした工事を行う者に対し、周辺に石綿粉じんの飛散がないか確認するため、石綿測定を実施するよう指導しています。
県では、夏季(8月)と冬季(12月)の年2回、県内20地点で環境大気中における石綿繊維数濃度の把握調査を行っています。この調査では、毎分10Lの空気をフィルターに4時間通気し、ここに捕集された繊維状物質を顕微鏡で計数して濃度を求めるもので、各地点で3日間連続して行っています。
過去5年間の調査結果を図2に示します。時期により若干の変動がありますが、2009年までは石綿繊維数濃度の減少傾向が見られ、全体的には0.1~0.4本/Lというレベルで推移しています。その後、2010年に調査指針(アスベストモニタリングマニュアル)が改訂され、主たる計数対象がクリソタイルから全ての繊維状物質に拡がったことで、やや高めの測定結果(総繊維数濃度)が得られています。
これらの測定結果は、世界保健機構(WHO)の環境保健クライテリア53に示された値(1~10本/L程度)や大気汚染防止法に基づく石綿製造工場の敷地境界基準(10本/L)に比べると1~2桁も低い値ですので、健康への影響については、特段問題ないレベルだと考えられます。
図2 県内20地点における環境大気中の石綿繊維数濃度(~2009年,紺色)
及び総繊維数濃度(2010年~,茶色)の推移
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