環境科学国際センター > ココが知りたい埼玉の環境 > 地面の下って、どうなっているの?
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掲載日:2023年1月16日
この記事はニュースレター第12号(平成23年7月発行)に掲載したものです。
私たちがふだん生活している地面の上は、目で見ることができますが、その下は見ることができません。
いったい、地面の下はどうなっているのですか?
土壌・地下水・地盤担当 白石英孝
まず地表から地下数百mくらいまでの比較的浅い部分について説明します。そのような浅い部分には粘土や砂や石などが交互に積み重なっていて、その重なり方は場所によって異なり、その土地の生い立ちとも密接に関連しています。
日本列島が日本海によって大陸と隔てられ、おおむね今の形になった後の約2万年前の最後の氷河期(最終氷期)には、大陸の氷河や氷床の発達によって海水面が今よりも100m以上低下し、日本列島は大陸と陸続きになっていました。約1万年前に最終氷期が終わると海面が急激に上昇し、6千年前(縄文時代前期)頃になると、現在の埼玉県の荒川、元荒川、中川などの一部の流域は海底に沈んで海になっていました(図1)。縄文時代後期になるとやや寒冷化して海の領域が後退しますが、それでもなお現在の春日部市や川口市は海の中にありました(図2)。このような海の進入や後退に伴って海の影響を受けた堆積物が地下に積み重なり、さらに、海の後退の後には河川の堆積物が地表を覆いました。埼玉県の地面の下には、こうしてできた堆積物が積み重なっていて、その重なり方は、海や川の影響の有無、当時の地面の高低などにより、場所によって異なっていると考えられます。
図1 縄文時代前期の海岸線2)
図2 縄文時代後期・晩期の海岸線2)
では、もっと深い部分はどうなっているのでしょうか。図3は環境科学国際センターが行なった県南部の地下構造調査の結果から、平野部における東西断面の一例を示したものです3)。図の左側が西で、右側が東、図の上部には参考として調査当時の市の名称を示してあります。図の縦軸は下に向かって深度を表し、下にいくほど深くなっています。図中に示した色分けは、地盤の硬さの違いを大まかにグループ分けしたもので、深くなるほど硬くなります。一番深い部分はとても硬い層に相当し、ここではこれを基盤と呼ぶことにします。図から東西方向の基盤は、1,000mよりも深いところにあり、特に旧浦和市や草加市の地下の基盤は深度3,000mほどのすり鉢状の谷になっていることがわかります。
図3 埼玉県南部の東西方向断面の例3)
図4 埼玉県南部における基盤の3次元構造3)
次の図4は、県南部の地下の基盤の形を3次元で表したもので、図3のような断面図を複数組み合わせて推定したものです3)。図の左にある縦軸が「深度」を表していて、数字の0が地表面、大きい数字ほど深い場所を表しています。地表面にあたる部分には、目安として県内の自治体名を示してあります。また、「緯度」と書いてある軸が南北方向(36°のほうが北、35.8°のほうが南)、「経度」と書いてある軸が東西方向(139.4°のほうが西、139.8°のほうが東)を表しています。図をみると南北方向に深い谷が続いていて、谷底は3,000mほどの深さになっていることがわかります。この谷の西側や東側は少しずつ浅くなっていますが、それでも図に示した範囲内では1,000メートルほどの深さになっています。また、谷の西側や東側の斜面には、半島のように突き出た部分が見られます。
もっと詳しく埼玉県の地面の下の様子を知るには、実際に地下を掘った記録を調べる必要があります。地下1,000m以上の深いところについては、埼玉県内には例えば、岩槻、日高、所沢などに国によって地下1,700~3,500mという深さまで掘られた観測用の井戸があります。したがって、その掘削の記録を調べれば、どれくらいの深さにどのような粘土、砂、石がどれくらいの厚さで堆積しているのかを知ることができます。ただし、その細部をここでお示しするのは難しいので、詳しくは、文献4)、5)などを参照してみてください。また数十mくらいまで地下の様子については、県の埼玉県地理環境情報WebGIS「地図で見る埼玉の環境 Atlas Eco Saitama」をご覧いただければ、その様子を知ることができます。環境マップに掲載されたデータは、公共工事の際に掘られた地下の記録を環境科学国際センターがとりまとめたものです。
環境科学国際センターの調査で得られた、こうした地下に関する情報は、県や国で行なった地震被害想定調査(大きな地震が起こった際、県内でどれくらいの被害が生じるかを推定する調査、県の調査はhttp://www.pref.saitama.lg.jp/a0401/higaisoutei/index.html、国の調査はhttp://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/index.html)や、地下水汚染が起こったときの汚染原因・汚染範囲の推定、公共工事を行う際の設計資料などに活用されています。
地下の地形や、粘土・砂・石がどれくらいの厚さで積み重なっているのか、というのは、地震が起こった時の地表面の揺れ方と密接に関係しています。そのため、防災対策を検討することを目的として、地下の構造に関する様々な調査研究が行われてきました。前で述べた岩槻、日高、所沢の観測用井戸もそうした調査の一環として国によって設置されたものです。観測用井戸は実際に穴を掘って地下の堆積物を確認するのですから、地下の様子を探るにはとても確実な方法です。しかし、何千mという深さになると調査費用が高額になるので、あちこちに井戸を掘るわけにはいきません。そこで物理探査といって、地表面からの調査によって地下の様子を探る方法が様々に開発されてきました。図3と図4に示した埼玉県の地下は、物理探査のうちの微動探査法6)と呼ばれる方法で明らかにされたものです。この方法は、微動とよばれる地面の微弱な振動を用い、その振動が地面を伝わる速さを測定・解析することで地下の構造を推定する探査法です。従来は主に地震防災のための調査に使われてきましたが、他の方法と比べて低コストで探査が行えるため、現在は様々な分野での活用が進められています。例えば、近年では石油・天然ガス田7)や地熱貯留層8)などの資源探査や、地球温暖化対策に関連した二酸化炭素の回収・貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)9)などでの活用が検討されています。環境科学国際センターでは、前で示した微動探査法による地下構造調査のほか、微動探査法の効率化を図るための基礎的な研究も行っています10),11)。
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