環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「埼玉の環境は今」その8
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ページ番号:21593
掲載日:2023年1月13日
あなたは身の回りに空気がどれくらいあるか考えたことがあるだろうか。きっと、それはあなたが思ってもみなかったほど少ないのではないだろうか。
高山に登ると酸素が薄くなることは広く知られているが、これは地球の重力によって大気が引き寄せられているためで、地表に近いほど大気の密度は高く、地面から高さ約11kmまでの対流圏の中に地球の大気の約80%が存在するといわれている。写真中、地球と宇宙の境界に描いたごくわずかな白い円弧部分が対流圏で、地球を卵に例えるとその厚さは殻の内側にある薄皮程度の非常に薄いものである。私たちはこんなに少ない大気の中で暮らしている。
この大気の中にはさまざまな化学物質が含まれている。昭和四十三年に制定された大気汚染防止法では、これらのうち短期間で人の健康被害を引き起こすような緊急性の高い大気汚染物質を対象に規制を行ってきた。これに加えて平成八年の同法の改正では、短期的には健康被害を受けなくても長い間吸い続けることによって健康を害するおそれのある物質を『有害大気汚染物質』と総称して、新しい取り組みが始まった。非常に多くの種類の有害大気汚染物質が、大気中のガスや粒子の中に含まれているが、その中から比較的健康影響が大きいものとして、現在二十二種類が優先的に取り組むべき物質とされている。これらについて埼玉県内では熊谷市や春日部市などを始めとする現在二十五地点で毎月一回のモニタリング調査を実施している。
代表的な有害大気汚染物質の一つであるベンゼンは、物の不完全燃焼によって発生することやタバコの煙に含まれていることなどが知られているが、発がん物質であることから排出抑制が始まった。ベンゼンはガソリンにも含まれていることから、別の法律によってガソリン中の濃度が平成八年四月から5%以下に規制されていたが、図の調査結果から分かるように多くの測定点で大気中濃度が環境基準を超えていたことから、平成十二年一月には1%以下に強化された。これにより平成十二年度には埼玉県内全地点の平均値が初めて環境基準を下回り、平成十六年度には年平均値が最大値となる地点も含めて環境基準以下となり、それ以来ずっと環境基準達成率100%を継続している。
このように、有害大気汚染物質の調査結果は大気汚染防止法だけに止まらず、それ以外の法や条例などによる環境保全にも広く利用され、有害大気汚染物質対策を担っている。この限られた地球の大気をなるべく汚さないように大切に守り、生涯安心して健康に暮らせるように、この調査による監視を続けていきたい。
地球の大気の厚さ
(見えるか見えないか程度の白い線が対流圏)
埼玉県内におけるベンゼンの大気中濃度
(各地点の年平均値とその全地点平均値)
大気環境担当 梅沢 夏実
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