環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「埼玉の環境は今」その32
ここから本文です。
ページ番号:21581
掲載日:2023年1月13日
騒音は振動や悪臭とともに感覚公害と呼ばれている。それは、ある人には快適な音が別の人には不快に感じるというように、人の感覚によって音の感じ方が異なることに由来する。身近な例では、ヘッドホンで音楽を聞いている人には快適でも、満員電車の中でたとえ小さな音でも耳障りな音が外に漏れていれば周囲の人は不快になる、ということが挙げられる。音に対する快・不快の感覚は、それを聞く人の立場、年齢、生活習慣など、様々な要因で異なっている。ここに騒音問題の難しさがある。
県内の騒音苦情はここ数年では年間ほぼ千二百件前後で推移し、内訳では工場・事業場からの騒音が約三割を占める(図)。こうした騒音公害の未然防止と解決を図るために、騒音規制法や条例による規制が行われている。この規制に使われる基準値は、実は多くの人の音の感じ方や反応の仕方をもとに決められている。つまり、音の感じ方は人によって異なるけれど、多くの人の感じ方を調べることで誰もが不快に感じる音の目安が得られ、その目安をもとに実際の規制が行われている。これは見方を変えると、製造機械や家電製品から放出される音を、誰が聞いても快適な、あるいは不快に感じない音に変えられれば、多くの騒音問題を解消できるかもしれないという期待を与えてくれる。
そこで、環境科学国際センターでは、中央大学理工学部精密機械工学科の戸井研究室と、人の感覚を考慮した低騒音化技術の開発を目的として共同研究を行なった。機械の低騒音化というのは、一般には機械から放出されている音の総量を低減させることを意味する。実際には機械の音を分析して、周波数ごとにどの程度の強さの音が出ているのかを調べ(写真)、通常は最も強い音を対象に対策を講じる。機械の中は様々な部品が収められているので、どの部品がその音の原因なのかを特定するのは大変手間がかかる。また、機械の性能を損ねずに音だけを小さくする方法を考えるのも容易ではない。時には、対策を施して騒音計で音を測ると確かに小さくなったのに、人が聞くとそのようには感じられない、対策の効果を実感できないということが起こってしまう。そうすると対策はやり直しになる。
こうした無駄をなくすために、この研究では、対策の対象とする音の周波数を、音の強さだけでなく人の感じ方も考慮して決めるという方法を検討した。音の感じ方を調べるには心理学に基づく方法を用いた。これは、複数の被験者に対策前後の音を聞いてもらい、その音の感じ方をアンケートで採点をしてもらうという方法である。ただし、対策後の音は対策前の音をコンピュータシミュレーションで作成する。このような方法を用いると、実際に機器を製作する前に対策方法の有効性を確認することができるようになる。そのため、対策のやり直しという無駄を省くこともできる。この方法を用いた低騒音化の実験では、音の低下はわずかでも感覚的には効果の大きい対策が可能であることが確認された。こうした技術を含めて、さらに多様な低騒音化技術が開発されることで、将来より良い音環境の社会となることを期待している。
騒音の苦情件数
音響実験室(無響室)での測定
地質地盤・騒音担当 白石 英孝
お問い合わせ
より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください