環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「自然との共生 埼玉の現状と課題」その17
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掲載日:2023年1月13日
2008年9月22日掲載
県では、「人との関わりを通して、水や生き物の豊かさが育まれる水辺」を里川と捉え、里川再生事業を展開している。里川と聞いてどのような姿が思い浮かぶだろう。その典型的なイメージのひとつが、唱歌「春の小川」に歌われている風景であろう。歌詞の二番には、「えびやめだかや小鮒の群れに」と、当時の小川で普通に見ることができた生き物が歌われている。さらに、原作の詞には三番があって、その中に「歌の上手よ、いとしき子ども」と子供たちの姿が登場する。当時の小川の風景には子供たちの存在が切り離せなかった。近所の小川で魚やエビを捕ったり、花を摘んだりして遊んだ経験をお持ちの方も少なくないだろう。
しかし、近頃では、県内でも川で遊ぶ子供たちを見かけることは稀になり、こうした子供たちは、絶滅危惧種と例えられるまでになってしまった。
河川や湖沼、海域の公共用水域にはそれぞれ環境政策の基本的な法律である環境基本法によって、政府が定める環境保全行政上の目標とされる環境基準が設定されている。環境基準は水質に関する人の健康保護、および生活環境の保全上、維持されることが望ましい環境基準として健康項目(有機塩素化合物や農薬など二十六項目)と生活環境項目(河川では水素イオン濃度[pH]や生物化学的酸素要求量[BOD]など五項目)に分けられて定められている。
河川の水質そのものは、県が行っている公共用水域の水質汚濁状況の監視結果から、BODで評価すると、現在ではひところよりもずいぶんと改善されたことを示している。かつては日本一汚れた河川として有名だった綾瀬川で、途絶えていた鮎の遡上が報告されるまでになったことも、そのことを裏付けている。これは水質の改善に加え、川の生き物に対する関心が高まったことも背景にあると考えられる。
平成十五年十一月には、新たに公共用水域における水生生物及びその生息又は生育環境を保全する観点から生活環境項目に全亜鉛を追加し、基準値が設定された。その内容は河川や湖沼において水温の高低とそれを好む魚などの水生生物およびそれらの餌生物、さらに産卵場などにより四類型に分けられているが、県内公共用水域では、一律に〇.〇三ミリグラム/1以下の基準が適用される(表)。県は、現在、公共用水域に対して全亜鉛の基準をあてはめる作業を進めている。亜鉛の他には、クロロホルム、フェノールおよびホルムアルデヒドの三項目が推移を把握するための要監視項目として位置付けられている。今後の展開としては、生き物の保護を目的とした新たな項目の追加も検討されている。
また、公共用水域の水質評価方法へ従来の環境基準による評価に加えて、生き物調査や生態系への影響を評価する方法を取り入れることも必要だろう。具体的には、かつては全国の地方公害研究所において盛んに行われていた底生生物調査や、研究レベルでは報告事例が多くなった生物検定(バイオアッセイ)と呼ばれる方法が挙げられる。
里川の再生にあたって、川で遊んだ体験とその頃の川の様子は、原体験や原風景として極めて貴重な情報となる。川本来の生き物の復活は、そのまま再生の程度を測る指標となる。そのためには、水質改善と合わせて、生き物の生息に必要とする場が整備されることも必要である。春の小川に歌われた、川に子供たちがよみがえるかどうか、これが最も分かりやすい水や生き物の豊かさが育まれるかつての水辺の復活の指標、まさに生物検定といえるであろう(写真)。
埼玉県環境科学国際センター 水環境担当 田中仁志
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