環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「持続可能な社会目指して」その20
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掲載日:2023年1月11日
現在、石油が枯渇の危機にさらされ、太陽光、風力などを使った持続可能な代替エネルギーの開発及び利用が積極的に行なわれていることは誰もが知っているはずだ。
では、リンが将来的に枯渇すると言われているのは御存じだろうか。リンは、他の物質では代替できない植物などに必須の物質であり、窒素やカリウムとともに農業の3大肥料として知られている。
農家のかたはもちろん、家庭菜園や園芸をするかたも肥料としてリンを見かけたことがあるだろう。そもそも、リン鉱石は古代の生物が化石化したものと言われており、なんと鳥類などの糞が起源のものもある。今、これら資源の消費について再検討する時期が来ている。
日本は、リン鉱石、肥料、また、リンを含有した農産物などとして、ほぼ100%外国からの輸入に頼っている、リン資源に乏しい国である。リン鉱石は、アメリカ、中国、モロッコなどで採掘されているが、アメリカは輸出を禁止しており、中国も近年リン鉱石の輸出に高い関税をかけ輸出を制限している。そのため、リン鉱石の輸入価格は海外の情勢に影響され、グラフに示すように大きく変動している。特に、2008年の高騰は著しい。
一方で、湖や海で富栄養化のためアオコや赤潮が発生することがある。この原因の1つがリンである。リンを外国から輸入し、加工した後に消費し、し尿などとして水とともに流す。そしてリンを多く含む下水が下水処理場などで処理されることになる。
このとき処理できなかったリンは川を経て湖や海を汚す。日本の湖や海は外国のリンで汚れてしまったのだ。ごみの分別の際に「混ぜればごみ、分ければ資源」というフレーズをしばしば目にする。リンも、まさにこれに当てはまる。下水とともに水域へ流出すれば、富栄養化を引き起こす迷惑な物質であるが、下水処理場で効率的に回収できれば、農業生産などのための有効な資源になる。
輸入されたリン鉱石は、複数のプロセスによりリン酸や燐安、石膏となって市場に出る。近年、このフローに下水から回収したリンをインプットするための研究が盛んに行われている。まず、下水処理場の活性汚泥と呼ばれる微生物群にリンを多量に摂取させてリンを除去し、次いでその微生物からリンを溶出させ、カルシウムやマグネシウムを添加してリンを化合物として析出させ回収する方法などである。
将来、その時を生きる人間のし尿が古代の鳥の糞と置き換わり、下水処理場がリンの宝庫となる時代が来るかもしれない。その時、日本はリン資源の豊富な国に変貌するはずだ。
リンの使用用途としては、化学肥料としての農業利用が多くを占める。現在の日本のカロリーベースの食糧自給率は40%程度であり、先進国の中でも最低の値である。食糧自給率の向上のためにもリンの供給は重要だ。今後のリン資源循環のため、下水からのリンの回収、再利用技術の発展が望まれる。
埼玉県環境科学国際センター 水環境担当 見島伊織
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