環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「自然との共生 埼玉の現状と課題」その18
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掲載日:2023年2月1日
2008年9月29日掲載
“里川”には本来、水中や岸辺に植物が生い茂り、魚やエビ・カニ、貝類から鳥類・哺乳類に至るまで、多種多様な生物が棲んでいる。また、水中の石に茶褐色の泥のようなものが着いているのを見たことのある人もいるだろう。これは肉眼では見えない微生物の塊である。河川や湖沼などの水圏生態系では、食べたり食べられたりの食物連鎖が成り立っている。
ところで、自然の浄化作用(=自浄作用)という言葉を聞いたことがある人も多いだろう。また、“三尺下れば水清し”という言葉は、河川の自浄作用を端的に表現したものである。有機物(炭素)や窒素・リンなどの物質は、食物連鎖を通じて自然界を循環している。これらの物質は自然界からの寄与もあるが、人間活動から環境中に排出されるものでもあり、水圏生態系の自浄作用で“浄化”されるが、その許容限度を超えると水質悪化を招くこととなる。
さて、“エコテクノロジー”とは、エコロジー(生態学)とテクノロジー(技術)が融合した言葉であり、汚濁物質の微生物による酸化・還元や動植物体への吸収といった自然の生態系のもつ機能を引き出し、強化して、水質改善を行う技術のことである。エコテクノロジーは、低エネルギー消費・簡易維持管理である上に、水辺の景観なども考慮した“環境にやさしい”ものであることをめざしている。
具体的な例としては、ヨシなどの(水生)植物を用いた人工湿地法や植栽水路法、れきや木炭を水路などに充填して用いる接触酸化法、ため池を利用した浄化法、土壌を用いたトレンチ法や傾斜土槽法など、様々なものが研究開発されている。共通しているのは、生態系が有する機能を積極的に引き出す点である。
環境科学国際センターでは、平成二十年度より、県の魚ムサシトミヨが生息する元荒川最上流部で、エコテクノロジーを活用した水質改善実験を行っている。これは、元荒川最上流部の、ムサシトミヨ保護区域に並行する旧河道への生活雑排水などが流入する小水路を浄化対象としており、応急的な発生源対策である。
一つの方法は、汚濁水路そのものに、ネットに詰めた木炭と、水質改善用ゼオライト成形体を設置し、流れてくる水を直接浄化するものである(写真1)。もう一つは、土壌を活用した浄化法である(写真2)。これは、汚水をポンプでくみ上げ、土壌の層を通過させて浄化を行う。どちらの方法も、木炭やゼオライト、土壌による汚濁物質の吸着や、そこに生息する生物による摂食や代謝作用の結果、汚水は浄化される。
この他に、汚濁水路への酸素供給(ばっ気)を行い、汚濁物質の生物酸化を促進するといった方法も検討している。その際、太陽光などの自然エネルギーを活用することで、環境低負荷型の浄化法を視野に入れている。
地球温暖化が世界的問題になっている現在、エネルギー消費が少なく維持管理が容易な浄化技術・手法の開発が重要である。その際、住民の方々に積極的に参加してもらえるような方法を検討している。また、生物観察会等を通じて、里川にふれあい、自分たちの里川として関わってもらえるような、親しみやすい技術をめざして研究開発を進めている。
写真1:木炭とゼオライト成形体を用いた汚水浄化水路
(奥が木炭、手前がゼオライト成形体。水の流れは奥から手前方向。)
写真2 :土壌などを活用した汚水浄化装置
(装置側面にプランターを設置し、汚水を利用して花を栽培している。)
埼玉県環境科学国際センター 水環境担当 木持謙
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