環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「持続可能な社会目指して」その16
ここから本文です。
ページ番号:22413
掲載日:2023年1月13日
およそ10mより深い地下の温度は、その場所の年平均気温とほぼ等しいことが知られている。また、季節変化も少なく、非常に安定していることも大きな特徴だ。言い換えれば、地下には外気の影響をほとんど受けない熱が蓄えられていて、ほぼ一定の温度が保たれているということになる。
井戸水(地下水)が、暑い夏には冷たく、寒い冬には温かく感じるのはこのためだ。この地下に蓄えられた熱のことを地中熱という。
例えば、さいたま市の年平均気温は約15℃で、夏(8月)と冬(1月)の平均気温はそれぞれ約26℃、約4℃となっている。つまり地中の温度は、夏は気温より10℃以上低く、冬には10℃以上高い。地中熱の有効利用とは、この温度差をヒートポンプの利用などにより暖冷房や給湯などの熱源として活用することともいえる。
これまで国内の地下熱資源の開発は、温泉・火山地域などの地下深くにある高温の熱利用が主体だった。一方で、盆地や平野地域の比較的浅いところ(地下200m程度まで)には、ばくだいな量の地中熱が存在するが、ほとんど利用されてこなかった。だが今後、低炭素社会の構築という社会的課題に対処していくためには、こうした未利用エネルギーの利用を積極的に進めることがますます重要になると考えられる。
実際、欧米などでは、地中熱利用が既に実用的かつ一般的な省エネルギー手法として広く普及している。しかし、国内では、掘削などにかかる費用が割高だったり、省エネルギー性などのメリットがあまり知られておらず、普及が進んでいないのが現状だ。
こうした状況から脱却するためには、地中熱を利用するシステムの性能やその導入効果について整理し、広く知らせていく必要がある。加えて地下水流動や地下温度分布、地下の熱物性についての基礎的な情報を得ながら、直面する技術的な課題を一つひとつクリアしていくことも重要だ。
そこで、環境科学国際センターでは、地中熱の利用推進を支援するため、地下の熱環境に関する研究を進めている。主な内容として、県内に広く展開されている地下水観測井を用いて地下温度の鉛直分布を測定している(図1)。この測定では、地下深くにある熱によって100m深くなるごとに温度が2~3度上昇することが確認され、従来の結果とも整合することが明らかになった。
また、県内の気象データを用いて、暖冷房に要するエネルギー量の地域的な分布を計算すると(図2)、山地や丘陵など標高の高い地域ではより多くのエネルギーが暖冷房に必要であることが分かった。こうした研究の成果は、地中熱利用を想定した地域別導入評価を行う際の基礎情報として広く発信する予定だ。
地中熱を用いた冷房では、通常のエアコンと異なり、室内の熱は地中に放出されるため、ヒートアイランド現象の緩和につながると考えられる。私たちの研究が、こうした環境にも、お財布にも優しい技術の普及に役立つことを期待したい。
地下温度の測定結果の一例(加須市)
暖冷房に要するエネルギーの地域的な分布
埼玉県環境科学国際センター 大気環境担当 佐坂公規
お問い合わせ
より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください