環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「埼玉の環境は今」その5
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掲載日:2023年1月13日
今年に入って「光化学オキシダント(光化学スモッグ)」の文字を新聞やテレビなどでよく見かける。前回述べたように、この光化学オキシダントの濃度が高くなると、目がショボショボしたり、喉や頭が痛くなったりする。そのため、濃度が0.12ppm以上の状態が継続することが予想されると「光化学スモッグ注意報」が発令される。
埼玉県は全国でも有数の光化学オキシダントが高濃度の県であり、光化学スモッグ注意報の発令日数は、平成十七年は二十六日で千葉県の二十八日に次いで全国二位、また平成十八年は十六日で東京都と大阪府の十七日に次いで三位であった(表)。今年は既に五月に光化学スモッグ注意報が発令されている。この光化学オキシダントは、人間の健康に悪影響を及ぼすだけではない。実は、植物にも様々な悪さをする。光化学オキシダントの90%以上を占める成分であるオゾンは、酸化能力が非常に高く、前回アサガオについて紹介したように植物の葉に茶色や白色の斑点をもたらすなどの目に見える障がいを起こすだけでなく、植物の成長を阻害したり、農作物の収量を減少させたりする。また、高濃度のオゾンは、山林の樹木の衰退に何らかの関与をしているのではないかとの指摘もある。
写真は、環境科学国際センター(騎西町)で実施した実験例で、コマツナを異なる空気条件で一か月育成した結果である。左側は野外の空気で育て、右側は野外の空気からオゾンを除去した空気で育成したものである。右側に比べて左側のコマツナが小さく、オゾンによって成長が抑制されていることが分かる。この実験は、オゾン濃度が比較的高かった時期に行なったものであり、常にこのような影響を及ぼされている訳ではない。しかしながら、現状レベルのオゾンにおいて何らかの影響を植物に及ぼしている可能性がある。また、我々の試算によると、過去二十年間の増加割合でオゾン濃度が増加し続けると、五十年後には水稲の収量が品種によって異なるが10から20%減少することが予測される。このように、今後、光化学オキシダントが増加し続ければ、オゾンの植物への影響が増加する可能性はある。
このオゾンに代表される光化学オキシダントの植物影響は非常に複雑で、植物の葉に目に見える被害が発生したからといって、それがそのまま植物の成長や農作物の収量への影響につながる訳ではなく、逆に、葉に目に見える被害が無くても成長や収量などに影響がある場合もある。また、気温や水分などの生育条件、植物の種類や品種などによっても影響の程度が異なるため、オゾンの植物への影響を評価するためには調べていかなければならないことはたくさんある。
最近では中国大陸などからの越境汚染の問題も顕在化しているが、埼玉県をはじめとする関東地方における光化学オキシダントの低減には身近なところでの原因物質の排出を削減していくことが欠かせない。そのため、国や県では原因物質のひとつである揮発性有機化合物の発生源対策を進めている。植物が我々にひっそりと鳴らしている警鐘を心に留めながら光化学オキシダント問題の解決に取り組んでいきたい。
大気環境担当 米倉 哲志
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