環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「埼玉の環境は今」その1
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掲載日:2023年1月13日
最近話題になっている光化学スモッグ、その主原因はオゾンだ。オゾンは地表付近にあると生物に有害に作用する。しかし、上空10~50kmの成層圏ではオゾン層を形成し、有害な紫外線を吸収して生物を守ってくれる。同じオゾンでも、存在する高さによって、その働きは大きく違う。そのオゾン層が壊れていくと警鐘が鳴らされたのが1974年。オゾン層破壊物質の代表がフロンである。写真は、オゾンが減ってオゾン層が薄くなった部分(オゾンホール)の状況で、黒く見える輪の内側がオゾンホール。1979年にはほとんど無かったオゾンホールが、2006年にはかなり大きくなっている。
フロンがオゾン層を壊すことが分かってから、国際的な取組が急速に進められ、製造廃止や排出防止が実施されている。その一環として、各地で清浄地域のフロン観測が行われているが、環境科学国際センターでは、より発生源に近い都市域での観測を継続している。対策の効果をいち早く知るためだ。
フロンには多くの種類があり、その用途は洗浄剤、冷媒、噴射剤など。グラフは、都市部のさいたま市と山間部の東秩父村で観測しているCFC113というフロンの大気中濃度の推移だ。参考に、環境省が測っている北海道の清浄地域の濃度も示す。このフロンは洗浄剤として使用されていたが、1996年に製造廃止の規制があった。それ以前は都市部で多く排出されていたために濃度が高かったが、規制に伴って低下しており、対策の効果がよく現れている。この図から特徴的なことは、現在では低下傾向がかなり緩やかになり、どこでも同じ濃度になっているということ。つまり、現在ではこのフロンの排出がほとんど無くなっているが、それでも濃度は0になっていないということだ。これはフロンが非常に安定だからで、これから数10年経たなければ、大気中から無くならない。対策が順調でも、オゾン層破壊がすぐに止まるわけではない。
実は製造廃止になっているフロンでも、冷蔵庫やカーエアコンに冷媒として使われているものは、機械が使われている間はその中に封じ込められている。そして、機械が廃棄される時に大気中に排出される可能性がある。排出されると、大気中に長く漂い、将来のオゾン層を壊すことになる。これを防ぐためには、冷蔵庫や自動車を廃棄する時に、家電リサイクル法や自動車リサイクル法にしたがって適正にフロンを回収しなければならない。これらの対策がうまくいけば、今世紀の中頃にはオゾンホールがほとんどなくなるのではないかと予測されている。しかし、フロンの排出が続くようだと、この見通しは当然遅れることになる。
フロンは地球温暖化作用も大きいので、温暖化防止対策としても重要だ。オゾン層を破壊しないが、地球温暖化ガスである代替フロンもあり、現在濃度が上昇している。それらの状況も観測しつつ、今後もフロンの動向に注目していきたい。
フロン(CFC113)の濃度推移
南半球における月平均オゾン全量の分布
大気環境担当 竹内庸夫
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