環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「持続可能な社会目指して」その18
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掲載日:2023年1月13日
私たちは豊かで快適な生活を得るため、様々な化学物質を利用している。現在国内で使われている化学物質は、数万種類に及ぶとも言われている。しかし、これらの化学物質の中には人や生物に有害なものや環境中に残留して生態系に影響を及ぼすものもある。
化学物質は、製造や使用を規制する法律、環境への排出を監視する法律などによって管理されている。しかし、以前は実際に化学物質がどこにどれくらい排出されているのか知ることはできなかった。
化学物質による環境汚染の未然防止に関する国民の関心が急速に高まる中、事業者による化学物質の管理活動を改善・強化し環境の保全や新たな枠組みの整備を図るため、1999年7月に「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」が制定された。
この法律には、MSDS制度とPRTR制度という2つの制度が含まれている。MSDS制度は、法律で定められた562種類の化学物質を他の事業者に譲渡・提供する際、その性状や取扱いに関する情報の提供を義務づける制度である。
一方、PRTR制度は、「人の健康や生態系に有害なおそれがある化学物質について、環境中への排出量及び廃棄物に含まれての移動量を事業者が自ら把握して行政庁に報告し、さらに行政庁は事業者からの報告や統計資料を用いた推計に基づき排出量・移動量を集計・公表する制度」である。現在、354種類の化学物質がこの制度の対象となっており、これらの化学物質の排出量や排出先などが把握できるようになっている。
埼玉県における2008年度の報告対象化学物質の排出量は9274トンで、2001年度に比べて10164トン(52%)も減少した(図1)。これは景気低迷などの影響もあると思われるが、事業者の排出量削減努力によるところが大きい。
県内では化学物質の97~98%が、大気へ排出されている。県環境科学国際センターでは、2003年度から毎年、県内の工業団地周辺で大気中のトルエンやキシレンなど、その工業団地で多く排出されている化学物質の濃度を調査している。ここで得られた調査結果は、工業団地における化学物質の排出量と大気中濃度の関連性を把握するための貴重なデータとなっている。
これまでの調査では、年平均値が環境基準を超過する化学物質はないが、しばしば工業団地の風上よりも風下方向で化学物質濃度が高くなる傾向が見られる。また、これらの調査結果は、調査を実施した工業団地内の企業、地元の地方自治体、住民などが参加するリスクコミュニケーションの場で公表している。
リスクコミュニケーションは、なかなかわかりにくい化学物質の環境リスクに関する情報を住民、事業者、環境NPO、行政で共有し、意見交換などお互いの意思疎通(相互理解)を通じて化学物質による環境リスクの低減を図っていくための一つの重要なツールであり、埼玉県はその普及に努めているところである(図2)。
今後持続可能な社会を形成するためには、人々が化学物質に関する知識や理解を深めるとともに、適正な使用、管理を心がけ、環境リスクを最小限にとどめる必要がある。そのため当センターでは、これからも化学物質に関する環境調査や情報提供を行っていく。
県内のPRTR制度対象化学物質届け出排出量の推移
化学物質に関するリスクコミュニケーションのイメージ
埼玉県環境科学国際センター 化学物質担当 茂木守
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