環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「埼玉の環境は今」その39
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掲載日:2023年1月16日
最近の気候変動は肌で感じるほど不気味である。昨年八月十六日に熊谷市では40.9℃とわが国観測史上最高の気温を記録している。このように地球温暖化を中心に地球環境の危機は間近に迫っている。この危機に正面から対峙し、その解決を図らない限り人間社会の発展はあり得ない。そのためには健全で恵み豊かな環境が、地球規模でも、身近な地域でも保全され、それを通して世界中の人々が幸せを実感できる生活を享受し、将来世代にも継承することができる持続可能な社会の形成が不可欠である。その際、科学的証拠が不確実といって対策が延期することのないよう、予防的取り組みが肝要である。
持続可能な社会の実現に向けた基本的な取り組みは次の三つである。
(1)環境が有している浄化容量以上に汚れを出さない。
(2)新たに採取する天然資源を最小限として資源の循環的利用を確保する。
(3)健康な生態系が維持・回復され、自然とヒトとの共生が保障される。
この三つの基本的取り組みはそれぞれ「低炭素社会」「循環型社会」「自然共生型社会」とよばれているが、実際にはその統合化が必要である。
持続可能な社会は図1に示したように、低炭素社会を中心にして循環型社会と自然共生社会が一体となったエコ社会である。
世界中の人々の温室効果ガス排出量がすべて平等であるとするならば、日本人は一九九〇年に比較して八〇パーセント程度削減しなければならず、現在からみれば超低炭素社会である。この排出量は昭和三〇年代前半のエネルギー消費に相当すると思われる。
ついで、資源採取、生産、流通、消費、廃棄等の社会経済活動の全てを通して、廃棄物の発生抑制や循環資源の利用等の取り組みにより、新たに採取する資源をできるだけ少なくする循環型社会、いわゆる三Rリデュース(減量化)・リユース(再使用)・リサイクルの徹底を目指した取り組みが必要である。
さらに、生物多様性が適切に保たれ、自然の円滑な循環のなかで、農業、林業、水産業を含む社会経済活動を自然に調和したものとし、また様々な自然とのふれあいの場や機会を確保することにより、自然の恵みを将来にわたって享受できる自然共生社会の構築が必要である。図2がそのイメージである。
わが国は古代から自然と共生して生活してきたが、近年急激な経済成長とともに自然共生社会は破壊されつつある。これまで築きあげてきた自然共生の知恵を再度復活させて、特に身近な自然である里地、里山、里海(里湖)、里川等の保全・再生・創出を通して、生物多様性の維持向上と生物資源の持続的利用を計る。
現実の社会をみると持続可能な社会づくりは決して容易ではないが、健全で恵み豊かな環境を将来世代へ引き渡すためには、国内外の幅広い関係者の参加と協同の下、環境保全に気持ちを一つにして、一人一人の取り組みの輪を広げ、力強く推進することが求められる。
持続可能な社会は昔に戻ることではない。現在の便利さはある程度犠牲になるかもしれないが、家族団欒や地域コミュニティでの活動、エコツーリズム、歴史、文化とのふれあい等今より豊かで幸せな生活が訪れるに違いない。
図1.持続可能な社会を目指して
図2.持続可能な社会のイメージ
埼玉県環境科学国際センター 総長 須藤 隆一
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