環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「自然との共生 埼玉の現状と課題」その13
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掲載日:2023年1月13日
2008年8月25日掲載
最近「川の国 埼玉」という言葉を目にしたり耳にすることが多いが、皆さんはご存じだろうか。埼玉県は、県の面積の約3.9%を河川が占めていて、その割合は都道府県の中で一位ということからPRしているもので、平成十九年度版“さいたまの環境”でも特集している。そして、誰もが川に愛着をもち、ふる里を実感できるよう、県では平成二十年度を川の再生元年として、河川を対象にしたさまざまな事業を展開している。
それでは、川の再生とはどのようなことだろうか。ここで県人口と代表的な河川水質の一九八〇年からの推移を見てみよう(図)。水質汚濁の代表的な指標であるBOD値では、八〇年代はまだ公害の名残があり、汚濁が著しい河川も数多くあった。しかし、その後の水質は着実に改善され、環境基準が設定されている河川で、現在、年平均が10ミリグラム毎リットル(mg/L)以上の地点はなくなっている。工場などの排水規制の徹底、下水道の整備、さらに合併浄化槽の普及など施策の効果が表れている。
一方、県内人口は毎年増え続け、全県的に都市化が進行した。この間、水辺に集う人々は増えただろうか。楽しそうに川で遊ぶ子どもたちの姿を見る機会はあるだろうか。水質は改善され、人口が増えても、川と住民との関係は必ずしも親密になっていないようである。そこで、従来の治水・利水の面からの河川改修に加え、人々が水辺に魅力を感じ、近づきやすく、水質も快適で生き物がいる水環境の創出、それが今日求められている川の再生といえる。
人とのかかわりを通して水や生き物の豊かさが育まれる川は、里地や里山と並んで“里川”と言い表されている。ふる里の川というと、昔懐かしい清らかな流れのある川を思い浮かべる人も多いだろう。一方、都市化が進んだこれからの時代の人と川との関係を模索して創られるのが里川になる。
環境科学国際センターでは、これまで開発した浄化技術や蓄積してきた知見・情報などを里川の再生に活用するために、本年度から新たな事業に取り組んでいる。その一つとして、県の魚ムサシトミヨが生息する元荒川最上流部で水質浄化実験に着手した。ムサシトミヨ保護区域は、地下水が流れる清澄な川だが、これに並行して古くからの元荒川の河道がある(写真)。
かつて、この地域は湧水が豊富で元荒川の水源になっていた。今も小川の面影は残っているが、湧水は枯れ、宅地化が進んで生活排水が注ぎ込む水路になっている。当然、ユスリカやサカマキガイなど汚い水の指標生物しか確認できない。ここの水辺で少しでも多くの生き物が見られるよう、小水路に木炭などを設置して流入してくる生活排水の浄化を行っている。しかし、里川の再生には、水質改善はもちろん、水量の確保も重要であり、さまざまな方策を検討していく必要がある。
流れる水は清澄で魚や生き物の姿もあり、子どもたちも心配なく遊べる川が家の近くにあったらどんなにいいだろう。「川の国埼玉」には、身近な川が至るところにある。地域住民が川に積極的にかかわることで、豊かな水環境の里川に姿を変えることができる。川を県民共有の資産として位置づけ、その価値をさらに高めることが新たな川の事業となっている。
県人口と代表的な河川のBOD値の推移
元荒川最上流部の古い河道
埼玉県環境科学国際センター 水環境担当 高橋基之
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