環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「持続可能な社会目指して」その3
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ページ番号:22470
掲載日:2023年1月13日
悪臭苦情は全国で年間17,000件を超え、埼玉県ではそのうちの約7%に当たる1,200件余りの苦情がある(図1)。悪臭苦情の都道府県別の順位を見ると、埼玉県は例年全国2位~3位という苦情が多い県だ。これらの悪臭苦情については、悪臭防止法や埼玉県生活環境保全条例に基づいて市町村が相談対応を行っている。こういった悪臭問題の解決に向けて、発生源の特定や防止対策を行うときの難しさや問題点などを紹介する。
悪臭苦情の中には、悪臭がどこからにおってくるのか分からない例も少なくない。その場合は近隣にある悪臭の発生源を探すこととなる。このとき、においの質や方向などについての相談者からの情報だけを頼りに調査範囲を絞って探していくので、これらの情報が十分にあると発生源を探しやすくなる。また、似たような悪臭を発生している事業所が複数あり、においの質だけでは苦情の原因となっている事業所が識別困難な場合には、相談者が悪臭を感じた日時とその事業所の操業状況を照合することによって特定できる場合もある。
同様の方法が、同一の事業所内に複数の発生源がある場合にも大変有効だ。以上のように、相談者による詳細な被害状況の記録は、発生源を特定するための大変有力な手掛かりだ。特ににおいの質は口頭や文章では正確には表現できないので、市町村の行う現地調査に相談者が同行すればより確実となる。
発生源が特定されると、事業者は悪臭発生量を減らすための工程改善や脱臭装置の設置等の対策の検討を始める。ここで、脱臭について理解するために、においの性質について触れておく。人間が感じるにおいの強さの感覚は、におい物質の濃度が高くなるほど鈍くなる性質がある(図2)。
そのために、脱臭対策によりにおい物質を90%除去したとしても、においの強さは1段階下がり少々においが弱まった程度にしか感じられない。通常であれば除去率が90%あればかなりの対策なのだが、特に発生源での悪臭が強い場合には、必ずしも十分とはいえない。より高い除去率を求めるためには対策費用が嵩み、事業者の負担が増大することが課題だ。
また、脱臭装置による対策が困難な例として、発生源が小規模な事業者の場合がある。悪臭には大気汚染や水質汚濁のような施設の規定がなく、事業活動に伴うすべての悪臭が規制対象となるが、強い悪臭は小規模の施設からも発生するため、零細な個人事業であっても規制を受ける可能性がある。このような事例では、高額な対策費用の捻出が困難な場合も多い。以上のような理由から、悪臭対策は工程改善などの安価な対策から試行錯誤しながら実施していく例が多く、それに伴い対策が完了するまでの時間は長くなる傾向がある。
これまで述べてきたような悪臭問題の難しさに十分な理解を持った上で、悪臭問題を相談するときは『相談したら後は市町村に任せておけば解決してくれる』ということではなく、『これから市町村と一緒にこの問題を解決していくのだ』という心構えが必要だということを忘れないでほしい。
図1 全国の悪臭苦情件数の推移
図2 におい物質の濃度とにおいの強さとの関係(硫化水素の例)
埼玉県環境科学国際センター 大気環境担当 梅沢夏実
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