環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「埼玉の環境は今」その21
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掲載日:2023年1月13日
国土の狭い日本では、廃棄物埋立地の確保は容易ではなく、絶えず埋立費用の高騰や埋立地不足の可能性に脅かされている。そのため、埋立処分ではなく、廃棄物排出の抑制やリサイクルに関心が向けられるようになった。
廃棄物のリサイクルは、資源の乏しい日本にとって、海外から輸入する資源への依存を少しでも減らそうとするとともに限りある資源を持続的に活用する手段としても考えられるようになった。特に、最近、石油に替わる資源としてバイオマスが注目されつつある。バイオマスとは、生物由来の有機物で、家畜ふん尿、生ごみ、木くずなどの有機性廃棄物が含まれる。
環境科学国際センターでは、有機性廃棄物の堆肥(たいひ)利用に関して、埼玉県内で発生する家畜ふん尿量と農用地における受入可能量のバランスを把握し、リサイクルの可能性やどのようにリサイクルを推進するべきかを検討している。
ところで、化学肥料が普及するまでは、肥料の歴史は有機性廃棄物のリサイクルの歴史であり、我々にどういう課題があるかを教えてくれる。江戸時代までは、関東における主要な肥料源は武蔵野台地原野の草木であったが、家畜や人のふん尿も肥料として利用されていた。ただし、明治三十年頃でも、埼玉県では、家畜は牛豚二千頭、鶏三十万羽程度であり、人のふん尿を加えても不足していた。このため、江戸の人ふん尿は下掃除人によって集められた後、船で埼玉方面にも運ばれ、野菜栽培などに使われた。
こうした仕組みはその後も継続し、埼玉系統農会(農協の前身)による配給事業では、昭和十年には東京市の配給総量の約四割に相当する約五十万トンの人ふん尿が埼玉県東部及び南部を中心に配給されていた。
しかし、戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の勧告もあり、肥料としての消費は急速に減少し、現在では、埼玉県内で発生する人ふん尿は、下水道や浄化槽などで処理されている。
一方、埼玉県内で飼養される牛豚鶏は肉食の習慣の普及と共に、戦後急激に増加し、現在では牛豚二十万頭、鶏六千万羽に達し、毎年約百万トンの家畜ふん尿が発生している。このため、堆肥の重要な供給源は牛豚鶏などの家畜ふん尿となっている。
群馬県や栃木県に比べ、その量は少ないものの、現在の家畜ふん尿分布は県の北部及び西部地域に集中していると考えられる(図1)。家畜ふん堆肥供給可能量と農用地の堆肥受入可能量とのバランスをみると、北部では余剰気味で、西部では家畜ふんが不足気味である(図2)。こうした分布は、歴史的な推移の中で形成されてきた。
農業では最近まで、さまざまな肥料源をうまく利用してきた。しかし、生活スタイルが変化し、経済が拡大する中、有機性廃棄物の需給バランスが大きく壊れることになった。特に、有機性廃棄物は工業製品と違って、その需要とは無関係に発生する。有機性廃棄物の利用の歴史を踏まえ、このような有機性廃棄物をうまく利用する仕組みを作っていかなければならない。
廃棄物管理担当 長谷 隆仁
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