環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「自然との共生 埼玉の現状と課題」その6
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掲載日:2023年2月1日
2008年6月30日掲載
近年、気温の上昇速度が加速している。この気温上昇を防ぐため、国連では気候変動枠組み条約が締結され、一九九七年十二月には京都議定書が成立した。歴史上初めて、文明の象徴ともいうべき化石燃料からのCO2排出量を、先進国で5%削減することが決められた。
ところで、日本の削減目標は6%だが、実質の削減割合はわずか0.6%であることはあまり知られていない。森林管理をすることにより3.9%(現在は3.8%に修正)、クリーン開発メカニズムや排出量取引等で1.6%、併せて最大5.4%を排出量から差し引けることで、EU諸国等との差異化が図られている。それにもかかわらず、日本の二〇〇六年度の排出量は一九九〇年比で6.4%も増加している。
政府は三月二八日、京都議定書目標達成計画について閣議決定し、今後さらに7%の削減が必要とした。企業の自主行動計画等の追加対策で一九九〇年比6%の削減目標は達成可能としているが、検証不能との批判も多い。
いずれにしても温暖化対策にとって京都議定書の目標達成は、ほんの入り口に過ぎない。昨年報告されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次評価書では、このまま対策を怠れば二一世紀末には地球の全球平均気温が6.4度上昇する。深刻な影響を回避するためには、産業革命以降、2度から3度の気温上昇に留める必要がある、と警告している。現実には世界のCO2排出量は、森林や海が持つCO2吸収能力の2倍以上に達している。したがって、CO2排出量を半減するまでは、大気中のCO2濃度と気温は上昇し続ける。どれだけ早く削減できるかが勝負なのである。
このことから、今、世界では少なくとも二〇五〇年までに(長期目標)世界の排出量を半減(先進国は60%から80%)させるとの合意は出来つつある(表)。そのためには遅くとも二〇二〇年までに(中期目標)、世界の排出量が減少に転じることが必要があるが、その方向性を探る洞爺湖サミットを前に、主催国日本は、六月九日の福田ビジョンで中期目標決定を先延ばしにしてしまった。
温暖化対策として、国民一人ひとりや企業の自主的努力への呼びかけは大切ではあるが、少なくとも中・長期目標達成のためには、分野ごとの排出実態(図)を踏まえた明確な削減目標と、実現に向けた社会的システム作りが不可欠である。
現在、EUは低炭素社会を目指した産業革命以来の大変革の時代に入ったといわれている。ドイツでは環境ビジネスで新たに百万人の雇用が生まれたが、それは昭和五十年代の日本の公害対策に学んだものだという。今後の世界の温暖化対策の行方に大きな影響力を持つ日本の姿勢が改めて問われている。
CO2排出量を減らすための方策として、国立環境研究所は、エネルギー供給を化石燃料から再生可能なエネルギーに転換し、需要側の省エネ、高効率化を徹底することで70%を削減する方法を提言している。そのための技術では、日本は世界最先端にあり、それらを有効活用する目標と体制づくりが急務である。
埼玉県も温暖化対策として、一九九〇年比6%の削減を目標にしている。二〇〇五年度の温室効果ガス排出量は5.6%増加しており、今年五月に目標実現に向けた取り組みの見直しが始まった。日本の公害・環境行政の歴史は、地方自治体の先駆的役割が大きかったことを示している。埼玉県が独自の目標を達成する意義は小さくない。
図 家庭からのCO2排出量の割合は20%。うち、乗用車が6%である。家庭で10%削減すれば日本の2%が削減できる。
表 先進国の温室効果ガス削減目標 日本の数値14%は福田首相が実現可能性に言及した値であり、中期目標ではない。
埼玉県環境科学国際センター 自然環境担当 小川和雄
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