事実上の倒産における未払賃金について
2 賃金・賞与(ボーナス)
2-6 事実上の倒産における未払賃金について
質問です
最近、私の勤める会社の経営状況が悪く、ここ3か月は給料が未払いであり、倒産寸前の状況です。
会社は15人程度の個人会社であり、賃金や退職金が保証されるか心配です。どのように対処したらよいでしょうか。
ここがポイント
- 使用者との交渉は団体でまとまって行うことが大切です。
- 賃金、退職金については一般先取特権があります。
(ただし、この先取特権よりも、税金や抵当権が優先します。)
- 未払賃金の立替払制度を利用することも考えられます。
お答えします
1 まず、賃金などの労働債権がどのような保護を受けるかについてですが、原則として次のとおりです。
- (1) 賃金
企業形態による違いに係わらず、賃金の全額について、他の一般債権者に優先して弁済を受ける権利(「先取特権」といいます。)があります。(民法第308条)
- (2) 退職金
企業形態による違いに係わらず、退職金の全額について、他の一般債権者に優先して弁済を受ける権利があります。(民法第308条)
- (3) 社内預金等の貯蓄金
労働者が返還を請求したときは、使用者は遅滞なく社内預金等の貯蓄金を返還しなければなりませんが(労働基準法第18条第5項)、先取特権は認められません(一般債権となります)。
2 次に、法律上の倒産手続が開始される前の賃金確保のための方法としては、次のような方法が考えられます。
- (1) まずは、まとまって交渉を
まず、経営者に対して支払いを求めることになりますが、個別に交渉するよりも、社員のまとまった行動が何よりも重要です。他の社員と相談し、労働組合で対応するなどして、統一的な行動を進めることが必要です。
また、未払賃金の存在を証する会社の証明書等を作成してもらいましょう。この証明書があれば、先取特権としての差押が可能となり、優先的に回収することもできます。
- (2) 裁判所を利用する
- ア 仮差押を申し立てる
未払賃金を被保全債権として、会社の取引先に対する売掛金を仮差押することができますが、そのためには、裁判所に仮差押命令の申立てをして、未払賃金が存在することを疎明(※注)する必要があります。
この場合、担保金を積まなければなりません。
なお、仮差押は会社の財産の現状を維持・保全するための手段ですので、実際に支払いを受けるためには、改めて債務名義を得て強制執行をする手続が必要です。
※注:疎明
「疎明」とは、「一応、確からしい」といえる程度の事実判断を生じさせる当事者の努力です(裁判官が、一応の推測が得られればよい)。
つまり、確信を持てる程度の事実判断を生じさせる当事者の努力である「証明」よりは、明らかにする度合いが低くてよいことになります。
- イ 強制執行を申し立てる
裁判所に対して、賃金仮払を求める仮処分を申し立てたり、また、支払督促の申立や本訴訟の提起などを行って債務名義を得ます。そしてこの債務名義に基づいて裁判所に申し立て、会社の財産に対する強制執行をする手続を行います。
- (3) 未払賃金の立替払制度を利用する
倒産状態となっている会社の資産に対しては、金融機関や大口債権者が抵当権などを設定していることも多く、実際には労働者の賃金がほとんど支払いを受けられないことも起こり得ます。
このような場合には、事実上・法律上の倒産企業に代わり、国が一定の限度で賃金を立て替える「未払賃金の立替払制度」(事例2-7参照)がありますので、労働基準監督署に確認してみるとよいでしょう。
ここにも注意!
労働者の労働債権には、他の債権者に優先して弁済を受ける権利があり、この権利を先取特権といいます。
しかし、労働債権よりも優先する債権もあり、不動産抵当権や、国税・地方税、社会保険料などは、労働債権に優先することとなっています。
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