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掲載日:2022年12月20日
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未来をより素敵なものにしようとチャレンジし続ける埼玉県の起業家や起業家スピリット溢れる経営者の方々にお話を伺うインタビュー特集「想いをカタチに」。
第11回は、「第8回(平成30年度)渋沢栄一ビジネス大賞」のベンチャースピリット部門において大賞を受賞した、佐原邦宏さん(株式会社ティービーエム 代表取締役)です。
さて、佐原邦宏さん流「明日を拓く」ヒントとは?さっそく読んでみて!
★インタビューは令和2年2月に行ったものです。
[左:株式会社ティービーエム 代表取締役 佐原邦宏さん]
[右:日本政府招聘 コスタリカ政府要人 視察会]
――株式会社ティービーエムの主な事業について、お聞かせください。
一言でいいますと「水を守り、新エネルギーを生み出す事業」、つまり「脱炭素事業」になります。我々の脱炭素のための技術は、多くの支援の下で約5年にわたって取り組み開発したもので、「フード・グリーン発電システム」と名付けています。これは日本初の環境技術と自負しています。この技術は、現在、よく言われているSDGs(Sustainable Development Goals「持続可能な開発目標」※の略称)に、まとめると17項目のうち6項目にしっかりと当てはまります。
SDGsを目指す企業などに当社技術を採用・導入していただくことで、SDGs貢献への目標達成に役立ちたいと考えています。
※持続可能な開発目標(SDGs)とは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。SDGsは発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいる。[外務省ホームページより抜粋]
[フード・グリーン発電システムのビジネスモデルと貢献するSDGsのゴール]
――水を守る事業について、教えてください。
元々、当社はメーカー型環境ベンチャーを志向し、1999年9月2日に設立しました。あえて「メーカー型」という言葉にこだわるのは、私のもの作りと事業への考え方からですね。ベンチャービジネスと聞くと、一日中机の前に座ってパソコンのモニターの中で終始するようなイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、我々はメーカーとして、世の中にはない新しい技術や製品、仕組みを自分たちの手で実際に創り出すことに情熱を注いでいます。
当社が最初に着手したのは、飲食店の厨房にある「グリストラップ(Grease Trap)」(日本語で「油水分離装置」とも呼ぶ。厨房排水に含まれる油分や残飯、野菜くずなどを分離、収集し、排水管を詰まらせたり、下水に直接流れ込むことを阻止する装置)を自動清掃する管理装置の開発です。
起業当時、飲食店には厨房排水をきちんと清掃管理するための装置がなく、排水浄化を助けるためのグリストラップが、かえって水を汚す原因になっていることが分かりました。多くの店舗でグリストラップが肥溜め同然になっていましたね(笑)。そこで、誰でも簡単に掃除できる省力マシンを開発しようと思い立ち、完成したのがグリストラップを根こそぎ清掃し、油分と残渣を分離回収できる『GT自動洗浄マシン「環吉君」』です。
通常、グリストラップから排出されるゴミは、バキューム業者に1か月に1回程度除去してもらい、産廃汚泥として処理されています。しかし、「環吉君」で多頻度管理すると、油分を効率よく分離回収できたため、油分資源化への道があるのではないかと思いついたのです。
――フード・グリーン発電システムの開発に着手したきっかけを教えてください。
すでに2002年にはグリストラップに溜まる油分(排水油脂)の資源化の方向性を模索していました。5年程かけて、排水油脂をA重油代替燃料(重油の中では比較的重質成分の低いタイプで、小型船舶やボイラー燃料などに用いられる重油)に転換することに成功し、CO2排出削減効果が高いカーボンオフ燃料として事業者に供給し、地球環境改善への第一歩を踏み出しました。
その供給を行っているさなか、2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。私の出身は福島県いわき市です。津波による原発事故に伴い、浪江町や富岡町の住民が多く避難し、市の人口は30万人から40万人に一気に増加しました。原発への非難が高まる一方、再生可能エネルギーへの注目度が増し、同時に電力の自由化がものすごいスピードで進み始めました。
A重油代替燃料としての供給実績は、すでに4~5年あったのですが、これからはグリーン電力を供給できた方が、より大きな社会貢献になると考え排水油脂の発電燃料化に取り組みました。結果、化学合成なし・副産物なしの独自のバイオマス燃料「SMO(通称:スモー)」が開発でき、高速ディーゼル発電機でバイオマス発電を行う「フード・グリーン発電システム」の開発につながったわけです。
東日本大震災後、地元・福島県に自身の事業を通して貢献するという見方・考え方で開発を進めてきました。もし、震災や電力自由化などのインパクトがなかったら、いまだにA重油代替燃料の製造供給を続けていたかもしれません。まさにあの時が、当社事業の転換点だったと言えます。
[日本初!排水油脂をクリーンエネルギーに変えるフード・グリーン発電車]
[花見台フード・グリーン発電所 発電室]
――本システムを開発する中で、苦労したことは何ですか?
苦労したことは、これまで誰もやったことがないことでしたので、知識を持っている人がおらず、課題解決に向け、孤軍奮闘したことです。
私は基本、ものづくりから、どう展開したらどんな事業になっていくかを考えること(事業開発)まで、「作り生み出すこと」が好きなんです。システム開発もまさにそうで、こういうモノがあったら便利だろうから、そのためにはこれをどういう風に動かしたら目指す形に近づくだろうか、という発想で考えてきました。最後に使う人が使った時に、重宝する形・製品を想定し、それを前提に組み立てていく、このような思考を巡らすことはとても面白いです。思考を巡らす過程においては、各分野の専門家や研究者から意見を頂戴した上で、自身の事業・やろうとしている開発にどう生かすかを自分の頭で考えるしかなく、自身のインスピレーション・直観も大切です。
自分にしかできないということは楽しいと思える反面、誰も教えてくれないので非常に大変ですが、システムが完成した今、この分野では当社が第一人者であると自負しています。
余談ですが、私の場合、閃くタイミングは日常生活のルーティーンの中である程度決まっており、閃くことでインスピレーションがまとまっていき、外れなく大体形になっていくことが多かったです。
「天才とは、1%の閃きと99%の努力である」と言ったトーマス・エジソンの言葉を、昔、私は「1%の閃きよりも、やはり99%の努力が大切なのだな」と捉えていたのですが、エジソンの真意は真逆でした。1%の閃きがなければ、何も始まらない、何も生まれない。だからこそ1%の閃きこそが最も重要で、やる事が決まれば、あとは努力で何とかなるということだったのです。実際に私も身をもって新しい開発をやってきて、心底実感しています。
――平成30年度、「第8回渋沢栄一ビジネス大賞(ベンチャースピリット部門)」において大賞を受賞されましたが、その後の反響やご状況はいかがですか?
私は高校生の時、将来は自分で何かやろうと思っており、その時に読んだ本で「士魂商才」「公利公益」という言葉に触れ、ずっと心の中にありました。後日、それは渋沢栄一翁の言葉であると知りました。ですから平成30年度、当社の事業がついに渋沢栄一を冠する表彰で大賞の評価を受けたときには感銘を受けました。渋沢栄一翁の言葉「士魂商才」「公利公益」に恥じない事業として、また、揺るぎない確信を持って、今後も取り組んでいきたいと思いを強くしました。
大変ありがたいことに当社の取引の相手方には大手企業が多くいらっしゃり、この度の受賞について皆様に非常に喜んでいただき、企業としての信用力がさらに高まったと感じています。また、横浜市とのタイアップのほか、横浜市の包括連携協定企業である日本KFCホールディングス株式会社をご紹介いただき、事業連携につながっています。また日本政府招聘による海外政府要人の日本の先端環境施設視察会への協力依頼を経済産業省から受けるなど、海外へのアピールチャンスが増えたり、NEDO共催でセミナーを開催したりと、多方面で受賞効果を実感させていただいています。
[NEDO本部におけるNEDO共催セミナーの開催]
――今後の事業の展望について、教えてください。
やりたいことは山ほどありますが、まずは今年5月ぐらいまでに、ケンタッキー40~50店舗の厨房排水を管理できるようにし、売上増加を見込みたい。今年1月以降、ヒルトン東京お台場の厨房排水も管理しているため、ヒルトン系列のホテル、その他の企業様にも当社のシステムを知っていただき、広めていきたいと思っています。
また、「当社の技術を使わせて欲しい」「一緒にやらせて欲しい」というフィールドを守る代理店からのオファーも多数受けており、地域循環経済の促進に向けて積極的に連携し、事業規模の拡大につなげていきたいと考えています。
このようなリアルな現場での仕組み・事業以外に、AI・IoT・IT活用によるフード・グリーン発電システムを核にしたビジネスモデル特許の具体化を目指しています。当社が脱炭素事業を展開する環境ベンチャーとして、社会的意義をより強くするためには、新たなサービスモデルを構築し、新しい社会的環境インフラ事業として確立していくことが必要であると思っています。
インタビューはいかがでしたか?食品産業の不要な排水油脂をエネルギーに変換し、新たな“都市資源”を生み出していく。何かしたいことのある人、チャレンジしてみたいことのある人にとっては、背中を押してくれる言葉の宝庫だったのではないでしょうか。
「未来へと挑み続けるチャレンジャー」の皆さんから学ぶ、「明日を拓く」ヒント。これからも、インタビュー特集「想いをカタチに」をどうぞお楽しみに♪
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