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掲載日:2024年1月22日
口腔内衛生管理は看護の領域では口腔ケアと呼ばれ、高齢者・要介護者の誤嚥性肺炎予防の観点からその重要性が認識されつつあります。
しかし、口腔衛生管理の意義はそればかりではありません。
口腔衛生管理の効用として期待されること
口腔衛生管理が必要なケース
口腔衛生管理が自分で満足に行えない人はすべて対象となるが、特に以下の状況では介助が必須となります。
生命の危機があるときを除いて、口腔清掃はたとえ経口摂取していなくても必要です。
人の口腔内には300種類を超える細菌が常在します。
これらの菌は口腔内では殆ど病原性を発揮しません。
しかし、これが他の臓器に移ると、しばしば病原性を示します。
弁膜症患者などにおける抜歯後の亜急性心内膜炎などはよく知られています。
老齢者の肺に誤嚥された口腔内細菌も同様に肺炎を生じさせます。
咳反射を伴わない誤嚥、すなわちsilent aspiration(不顕性誤嚥)が起きると、肺や気管支に口腔細菌や細菌が付着した口腔粘膜が流入し肺炎を起ここします。
これが誤嚥性肺炎です。
誤嚥性肺炎の病原菌は、グラム陰性棹菌のうち口腔特有の嫌気性棹菌が最も多いです。
従いまして、進行した虫歯や歯槽膿漏でぐらぐらになった歯が放置されていたり、残ね状態で周囲に膿が付着している歯が残っている状況は極めて危険です。
しかも、これが日常ありふれた口腔内所見であることは、身近に要介護高齢者をみている人にはおわかり頂けることと思います。
肺炎で死亡する人の92%が65歳以上の高齢者であることからも誤嚥性肺炎の危険性がわかります。
誤嚥は特に病気に罹患していない高齢者でもみられます。
口腔衛生管理が必要なのは要介護高齢者ばかりではありません。
口腔内細菌は口腔粘膜や舌など至るところに存在しますが、主たる細菌巣はプラーク(歯垢)中にあります。
歯冠部プラークの水分を除いた有機成分の80%以上が細菌で占められ、重量1gあたりの細菌数は約100億個です。
ブラッシング法
プラークは歯面に付着しています。
粘り気があるので、綿でこすったくらいでは容易に取れません。
口腔内では強力な薬剤も使用できないので、歯ブラシで機械的にこすり落とすことが中心になります。
これがブラッシング法です。
洗口法と清拭法
全身疾患の急性期や症状が悪化した時期には消毒薬による洗口法や、巻綿子などで汚れをふき取る清拭法も適応となります。
口腔内が不潔であるという自覚や清潔にしようとする本人の意欲が減退する
意識障害や注意力の障害があると、口腔内の汚れの自覚が乏しくなります。
この場合、歯磨き指導をしても効果が上がりません。
普段から十分歯磨きができていない
歯磨きが自立している場合も、実際は十分磨けていないことが多いです。
要介護状態になる前から汚れの取れる磨き方をしていませんでした。
急にきちんと磨くように求めても無理です。
手指の機能障害のため介助が必要なケースが多い
さまざまな疾患の後遺症として手指の運動機能障害がみられ、高い巧緻性を要求される歯磨き動作が満足に行えません。
この場合、自分でできる限りのことをした後、介助磨きが必要です。
口腔衛生管理はなおざりにされやすい
口腔内は外から見えにくい事もあって、なおざりにされがちです。
本人からの訴えがないと周囲も気付かないまま劣悪な状態が続くことになります。
自分でできる部分はそれを生かします。
時間がかかるなら、時間をかけても良いです。
機能障害がある患者さんは、意欲がなくなり依存傾向が強いことが多いです。
これを放置すると、さらに機能が低下していきます。
できないことだけ介助するのが原則です。
自分で口腔ケアを行う意欲があっても、機能障害のためにできない場合は、機器の工夫が有効です。
うまく利用することによって口腔清掃が自立できます。
歯ブラシの加工
柄を握りやすくする工夫
握力の弱い方のために握りを太くします。
レジンなどを添加して、丁度良い太さに調節します。
小児用で握りの太い製品が市販されていて、利用出来ます。
歯ブラシを曲げたり、柄を伸ばす
最近の歯ブラシは、首のところをバーナーなどで加熱すると容易に曲げることができます。
慢性関節リウマチの場合、関節の可動範囲に合わせて歯ブラシを曲げたり、リーチャー(長い棒状の介助具)などに歯ブラシの柄を取り付けます。
こうすると歯磨きが自分で行えるようになります。
電動歯ブラシの使用
手指の細かい運動が困難な人に適しています。
上肢機能障害1~2級で普通の歯ブラシの使用に困難をきたす場合は、電動歯ブラシが給付されます。
ともすれば電動歯ブラシには過大な期待がかけられますが、普通の歯ブラシがある程度使える人でないと電動歯ブラシも使えません。
歯面に毛先を当てて保持できなければ効果がないからです。
電動歯ブラシは、むしろ介護者の疲労を減少させるのに役立つものです。
この場合も、毛先が歯面に当たっていることを確認しつつ使用しないと、歯肉に損傷を与えます。
最近は電動歯ブラシも種類が増えてきました。
本人に握りやすい太さであること、振動に耐えられること、替えブラシの入手が容易であることが選択のポイントです。
残存歯が孤立歯である場合は小型の丸いブラシが回転するタイプが効果的です。
立位で歯磨きをする人は機能障害の程度が軽いです。
通常は介助を必要としません。
指導は対面するより並んで鏡に向かって行う方が理解しやすいようです。
介助をする場合、立位は背後を支えるものがなく姿勢が不安定です。
座位をとらせた方が良いです。
自立
通常は車椅子に座って歯磨きをします。
車椅子は背板や左右の側板があり、ブレーキさえかけておけば体が倒れることもなく安定しています。
車椅子で洗面台に向かうと、口の位置が低すぎます。
蛇口が遠いので、洗口にはコップを用意しておかなければなりません。
介助
車椅子の場合はそのままでいいです。
布団やベッドに座っている場合は、背当てなどで倒れないように支えます。
車椅子の場合は後ろから頭部を抱えるように腕を廻すと、しっかり支えることができます。
布団やベッドの場合は後ろに廻れないことが多いので、前面からアプローチします。
歯ブラシは力が入り過ぎないように、また隅々まで細かい操作ができるように、必ずペングリップで持ちます。
これが介助磨きのポイントです。
軽い圧で、1~2歯単位で同じ箇所を20回くらいずつ磨きます。
これを全歯列について行います。
時間もかかるし(慣れても15分はかかります)、介助をする人も疲れます。
どうしても斜めから覗き込む姿勢になるので、腰が痛くなります。
介助される人も長時間口を開けていると疲れるので、一気に完璧なブラッシングを目指さないことです。
歯磨きをすると、刺激で唾液分泌が盛んになります。
よだれが気になる時は、前掛けをしたり、首にタオルを巻いておきます。
自立
疲れやすい場合や姿勢の保持が難しい場合は、ベッドの上半身部分を45度から60度に挙上したファーラー位とします。
体がずり落ちないように注意します。
コップに満たした水で歯ブラシを洗いながら歯磨きを続けます。
口元の汚れはティッシュペーパーやタオルを手元に用意して拭きます。
介助
ベッド上では、アプローチが遠くなりやすいので、なるべく手元に寄ってもらいます。
転落の恐れがあればガードしておきます。
咬合平面が水平になるように枕を入れたり、手を添えて頭部を起こします。
歯ブラシはペングリップで保持し、力を入れすぎないようにします。
自分から遠い側の歯磨きは、患者の体に覆いかぶさるような姿勢になるので、顔だけ介助をする人の方を向いてもらうと随分楽に行えます。
唾液分泌は多くなりますが、飲み込んで差し支えありません。
気にするようであればティッシュペーパーで拭き取るか洗口します。
洗口する際は、ガーグルベーズンを利用します。
歯磨剤を最後に使用して一通り磨き、歯磨きを終えます。
片麻痺の場合で嚥下障害のある場合は、麻痺側に水分が流れると誤嚥を起こしやすいので、健側を下にした側臥位をとります。
注意:脳卒中片麻痺患者の場合、運動麻痺と共に感覚麻痺もある。従って、万一麻痺側の腕が下になった場合でも痛みを覚えないので危険です。
自立
体幹を保持することは難しく、上半身を30度起こしたセミファーラー位しかとれない状態では歯磨きの自立は難しいです。
介助
仰臥位は誤嚥を起こしやすいです。
頭の下に枕を入れて、少しでも頭部を起こします。
手技はファーラー位の場合と同じです。
介助に際して無理な姿勢になりやすいです。
嚥下障害のあるケースも多いので、口腔内の水分はガーゼで吸わせるようにするか、頭部を横向きにして排出しやすいようにします。
口を開けてくれない場合
無理に開口させようとすると、歯を脱臼させることがあります。
意識障害のある場合は専門家に相談します。
歯ブラシを入れると強く噛みしめてしまうこともあります。
歯磨きを怠っていた後によく見られる過敏の状態です。
この場合、最初からきちんとした歯磨きをしようとせず、脱感作から試みます。
即ち、口腔への刺激に慣らすことから始めます。
咬まれないように注意して指を口腔前庭に入れ、最初は口唇の緊張がとれるまでそのままおきます。
これを何度が繰り返し、緊張が取れたら除々に動かして歯肉に軽いマッサージを試みます。
指にさわやかな味や香り(例えばレモン味)の液体をつけてマッサージを行います。
マッサージの刺激で唾液が出てきます。
口が潤ってくると摂食の準備にもなります。
義歯は毎日清掃しなければなりません。
夜間は水を張った容器に入れて保管します。
義歯は通常プラスチック製であり、乾燥させると歪みが生じます。
部分床義歯
通常はクラスプ(義歯を維持するためのバネ)がついているので、変形させないように取り扱います。
入り組んだ部分の汚れがとれにくいです。
全部床義歯
クラスプがないだけ扱いやすいです。
堅い床に落とすと割れるので注意します。
施設など集団生活で義歯を取り違える恐れがある場合は、義歯に名前を入れてもらうとよいです。
義歯用ブラシ
義歯の清掃には、普通の歯ブラシの硬めのものでもよいですが、義歯清掃用に考案されたブラシが市販されています。
吸盤付きブラシ
片麻痺患者は吸盤付きブラシを用いると一人で義歯の清掃ができます。
義歯用洗浄剤
汚れがひどいとブラシでこするだけでは清掃できません。
義歯洗浄剤を使用すべきです。
多くの製品が市販されています。
効果的なブラッシングは快適な環境で落ち着いて行わなければできません。
短時間では健常者でも無理です。
立位でブラッシングできる人は、洗面所で鏡を見ながら、健常者と並んで歯ブラシの動かし方を確認するとよいです。
患者さんは疲れて最後まで磨けないことも多いので、最後まできちんと磨けないのなら、少しでも効果的な歯磨きができている最初の時間を有効に利用します。
毎回磨き始める部位を変えると、何度目かの歯磨きで一通りきれいになる筈です。
テレビを見たり、ラジオを聞きながら歯を磨くと、長時間のブラッシングも耐えられます。
活用するべきです。
就寝前の口腔ケアが最も重要です。
就寝中に細菌数が増加するからです。
目標設定はスモールステップとします。
少しでも向上したら褒めることです。
達成感を味わうと意欲がわいてきます。
高すぎる目標は達成し難く、また歯磨きの場合は、自立・介助を問わず力が入って歯肉に損傷を与えてしまい、翌日から触れないほどの痛みとなります。
これでは逆効果です。
歯磨きをすると多量に出血する人は、通常は歯肉の炎症によるものです。
最初は驚くほど出血しますが、少しずつでも続けることです。
血友病など出血傾向のある人は、歯磨きをしなくても歯肉からじわじわと出血が見られます。
歯磨きをしなくても歯肉出血のみられる見られる場合は精査を要します。
寝たきりになると、本人も家族も目の前のことにかかりっきりになって、それだけ精一杯になります。
入院した病院にたまたま歯科があると「これから先、歯が痛んだり、腫れたりすると困るから抜いて欲しい」と家族からも本人からも依頼される現状は、大変残念な事態です。
寝たきりになって、にわかに口腔衛生指導を行っても効果を上げられません。
若年からの指導が根付かなければならないと痛感します。
さらに、口腔衛生管理が必要とされる現場に、歯科の専門家が殆ど関わっていない事態は大変残念です。
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