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掲載日:2024年4月2日

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答申第162号 「特定株式会社の『受入配材明細書』及び『製品出荷明細票』について」に係る部分開示決定(平成23年3月31日)

答申第162号(諮問第199号)

答申

1 審査会の結論

埼玉県知事(以下「実施機関」という。)が平成21年9月28日付けで行った、○○○○株式会社(以下「T社」という。)の「受入廃材明細票」及び「製品出荷明細票」(以下両者を合わせて「本件対象文書」という。)の部分開示決定(以下「本件処分」という。)については、次の部分を開示すべきである。
「受入廃材明細票」の法人の「現場名」の地番

2 異議申立て及び審議の経緯

(1) 本件異議申立人(以下「申立人」という。)は、平成21年9月14日付けで、埼玉県情報公開条例(以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、実施機関に対し次の開示請求を行った。
旧浦和青年の家及び旧岸町庁舎跡地(以下「跡地」という。)に敷き込まれた再生砕石にアスベストが含まれていた件で、

  • ア T社への立入調査がわかる文書(メモ)
  • イ T社の「受入出荷明細書」

(2) これに対し実施機関は、「T社への立入検査報告書」及び本件対象文書を特定し、これらについて平成21年9月28日付けで部分開示決定を行い、申立人に通知した。

(3) 申立人は、平成21年11月13日付けで、実施機関に対し、本件対象文書の不開示の処分の取消しを求めて異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。

(4) 当審査会は、本件異議申立てについて、平成21年12月25日に実施機関から条例第22条の規定に基づく諮問を受けた。

(5) 当審査会は、実施機関から、平成22年1月19日に開示決定等理由説明書の提出を受けた。

(6) 当審査会は、申立人から、平成22年3月1日に反論書の提出を受けた。

(7) 当審査会は、平成22年6月22日に実施機関の職員から意見聴取を行った。

(8) 当審査会は、平成22年7月13日に申立人の口頭意見陳述を聴取した。

(9) 当審査会は、平成22年9月7日に実施機関の職員から意見聴取を行った。

3 異議申立人の主張の要旨

申立人が主張している内容は、おおむね次のとおりである。

(1) 本件対象文書の不開示部分は、条例第10条第1号ただし書ロの「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」及び同条第2号ただし書の「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」に該当するため、全ての開示を求める。

(2) 跡地に敷かれた再生砕石からアスベストが検出され、同じ製品が他の場所にも搬出されているが、付近の住民はそのことを知らない。知ることによって対策がとれる。アスベストの汚染拡大が懸念されるため、本件対象文書の全ての情報開示が必要である。

(3) 県は、跡地周辺の大気中の石綿濃度を調査した結果、基準を大きく下回っているため生命が害される具体的蓋然性がないと言っているが、研究者は少量のアスベストでも健康に対して何程かの障害をもたらすと言っている。

(4) アスベストの危険性について、積極的に情報を提供し、コミュニケーションに努めることで、リスクの軽減が進む。

(5) 埼玉県情報公開審査会の答申でも、「産業廃棄物の処理に係る排出事業者、収集運搬業者の責任を明確にし、適正処理を推進するためにも産業廃棄物処理に係る情報公開が求められている」としている。

4 実施機関の主張の要旨

実施機関が主張している内容は、おおむね次のとおりである。

(1) 「受入廃材明細票」の現場名の地番及び「製品出荷明細票」の現場名の建物名は、他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができる情報であることから、条例第10条第1号に該当するため不開示とした。

(2) 「製品出荷明細票」の製品納入先の法人の名称は、特定の法人の内部管理に関する情報であって、開示することにより当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報であり、条例第10条第2号に該当するため不開示とした。

(3) 跡地から石綿含有建材が発見された原因は特定されておらず、また、大気中の石綿濃度の調査によれば、跡地周辺において生命等が害される具体的な蓋然性はない。したがって、「受入廃材明細票」の現場名の地番及び「製品出荷明細票」の現場名の建物名については、条例第10条第1号ただし書ロの「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」には該当しない。
また、「製品出荷明細票」の製品納入先の法人の名称も、同じ理由により条例第10条第2号ただし書の「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」には該当しない。

(4) 実施機関は、「受入廃材明細票」の現場名の地番及び「製品出荷明細票」の現場名の建物名について、他の情報と照合することにより、特定の法人等を識別することができる情報も含まれており、その情報は開示することにより当該法人の権利や正当な利益を害することから、条例第10条第2号に該当するとの理由を追加した。
これらも(3)と同様の理由から条例第10条第2号ただし書の「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」には該当しない。

(5) 埼玉県情報公開審査会の過去の審査会の答申では、「産業廃棄物の処理に係る排出事業者、収集運搬業者の責任を明確にし、適正処理を推進するためにも産業廃棄物処理に係る情報公開が求められている」として排出事業者名を開示したことは妥当であるとしているが、本件においても産業廃棄物の処理に係る排出事業者名は開示している。

5 審査会の判断

(1) 不開示理由の追加について

実施機関は、「受入廃材明細票」の現場名の地番及び「製品出荷明細票」の現場名の建物名について、当初、他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができる情報であることから、条例第10条第1号に該当するため不開示とした。しかし、当審査会に提出した理由説明書で、他の情報と照合することにより、特定の法人等を識別することができる情報も含まれており、その情報は開示することにより当該法人の権利や正当な利益を害することから、条例第10条第2号に該当するとの理由を追加した。
行政処分における理由の付記は、実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、不開示理由を開示請求者に知らせることによって、不服申立てに便宜を与えるために行うものである。そのため、当初の不開示決定における理由付けが十分でなく、不服申立てが行われた後に実施機関が不開示理由を追加することは、情報公開制度の運用上、必ずしも適切なものとはいえない。
しかし、最高裁判所平成8年(行ツ)第236号同11年11月19日判決が示すように、不開示理由の追加は認められないものではない。
そのため、当審査会では、追加された不開示理由についても申立人に反論の機会を与え、条例第10条第1号と第2号の双方について審議を行った。

(2) 本件請求について

本件対象文書は、跡地に敷かれた再生砕石から石綿含有建材の破片が発見された件について、県が跡地や関係者に対して立入検査や聴取調査を行ったが、その調査の一環として、県が再生砕石を製造した中間処理業者であるT社に立入検査を行った際に、調査資料として求め実施機関に提出された文書である。
「受入廃材明細票」は、跡地に敷かれた再生砕石の原料として受け入れた廃棄物に係る排出事業者名、現場名、電話番号、廃棄物を搬出した車の種類と台数を取りまとめたものである。
「製品出荷明細票」は、跡地に敷かれた再生砕石と同時期に製造された再生砕石(以下「同時期に製造された再生砕石」という。)の納入先業者名、搬入先の現場名、品名、数量を取りまとめたものである。
実施機関は、「受入廃材明細票」については「現場名」の地番を条例第10条第1号及び第2号により、また、「製品出荷明細票」の「納入先業者の名称」を条例第10条第2号により、同票の「現場名」の建物名を条例第10条第1号及び第2号により不開示とした。
これに対して、申立人は、これらの情報は条例第10条第1号ただし書ロ及び第2号ただし書に該当するため開示すべきとして本件異議申立てを行ったものである。

(3) 「受入廃材明細票」の「現場名」の地番について

受入廃材明細票の現場名は、T社が再生砕石を製造した際に、その原料となるコンクリート塊が建物の取り壊し等により発生した場所である。これについて、実施機関は地番まで開示することによって、住宅地図等と照合することにより、取り壊しのあった現場ないし取り壊された建物に係る個人等が識別され得ると主張する。
これについては、その建物等あるいは所在地が個人の所有物であった場合、地番まで開示することによって、住宅地図等と照合することによって所有者であった個人が特定できるため、個人を識別することができる情報といえ、条例第10条第1号本文に該当する。
建物等が取り壊された場所は、廃材が排出された場所等として産業廃棄物管理票(マニフェスト)に記載されることとなっている。これらの情報は、廃棄物管理票交付等状況報告書等によって実施機関に報告されるが、当該情報を公にする法令、条例上の規定はなく、また慣行もないため、当該情報は条例第10条第1号のただし書イに該当するということはできない。
また、実施機関によれば、平成21年8月に県管財課が跡地周辺の大気中の石綿濃度を調査した結果、さいたま市が建物等の解体工事について条例で定める基準(10本未満/L)等を大きく下回る(0.3本/L)ことが明らかとなっており、跡地周辺において生命等が害される具体的な蓋然性はないとのことである。さらに実施機関は、T社から提供された情報によって、同時期に製造された再生砕石が出荷された14か所を調査しており、その結果同時期に製造された再生砕石が使用された場所はアスファルトなどで覆われるなど再生砕石は露出されておらず、アスベストが飛散しない状況であるという事実が確認されている。
したがって、当該情報は同号ただし書ロにも該当せず、不開示としたことは妥当である。
一方、取り壊された建物等あるいはその所在地が法人の所有物であった場合、地番まで開示することによって、住宅地図等と照合することによって所有者であった法人が特定できるため、条例第10条第2号の法人に関する情報といえる。
これについて実施機関は、特定の法人の内部管理に関する情報であって、開示することにより当該法人に事業上の支障が生じることとなるとする。しかし、通常、取り壊された建物の所有者であることが公にされることにより当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益が害されるおそれがあるとは考えられず、本件においても実施機関は、当該法人が具体的にどのような事業上の不利益があるのか述べていない。したがって、それらの情報は、条例第10条第2号の法人の「権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」ということはできないと考えられることから、不開示とすべき情報には当たらないため開示すべきである。

(4) 「製品出荷明細票」の「納入先業者名」について

「製品出荷明細票」の製品納入先の法人の名称について、実施機関は、これらの情報が公開されることにより、当該石綿含有建材がT社の再生砕石製造過程で混入し、かつ跡地で使用されたことが疑いのない事実であるかのように情報が流布され、納入先業者に対して問い合わせや調査の要求が行われることが予想されるとする。その場合、T社の取引先や顧客である事業者に事実上大きな負担と事業上の支障が生じることとなり、T社の事業における競争上の地位が害され、条例第10条第2号に該当するとする。
申立人は、現在はアスベストが飛散しない状況であっても、今後アスファルトがはがされるような状況も考えられることから、住民に石綿含有建材が含まれた再生砕石が使われていることを知らせておくことが重要だと主張している。
しかし、「納入先業者名」が開示されたとしても、石綿含有建材が含まれた再生砕石が使われた場所が明らかになるものではなく、これらの情報が公開されることにより、納入先業者に対して問い合わせや調査の要求が行われ、結果としてT社の事業における競争上の地位が害されるおそれがある。
また、実施機関によれば(3)に述べたような事実が確認されており、同時期に製造された再生砕石が使用された場所において、生命等が侵害される具体的な蓋然性は明らかでない。これらのことを考え合わせると、納入先業者名については、条例第10条第2号に該当し、また同号ただし書に該当せず不開示とした判断は妥当である。

(5) 「製品出荷明細票」の「現場名」の建物名について

「製品出荷明細票」の「現場名」の建物名については、同時期に製造された再生砕石が使用された場所を示すものである。実施機関はこれを開示することによって、住宅地図等と照合することにより、同時期に製造された再生砕石が使用された場所ないしその場所の建物に係る居住者等の個人が識別され得ると主張する。さらにこれらの個人に対して問い合わせや調査の要求が予想され、個人の生活上の安寧が脅かされるとも主張する。
実施機関の説明によれば、当該建物は一つのマンションであるとのことであるので、当該情報は条例第10条第1号本文に該当するが、同号ただし書イに該当するということはできない。また、同時期に製造された再生砕石が使用された場所において生命等が害される具体的な蓋然性があることは明らかでなく、個人情報を公にすることにより害されるおそれがある個人の権利利益よりも、当該情報を公にすることにより人の生命、健康、生活又は財産を保護する必要性が上回るとは認められないため同号ただし書ロにも該当せず、本件情報を不開示とした判断は妥当である。

以上のことから、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

(答申に関与した委員の氏名)
管野 悦子、田代 亜紀、松村 雅生

審議の経過

年月日

内容

平成21年12月25日

諮問を受ける(諮問第199号)

平成22年1月19日

実施機関から開示決定等理由説明書を受理

平成22年3月1日

異議申立人から反論書を受理

平成22年6月22日

実施機関から説明及び審議(第一部会第54回審査会)

平成22年7月13日

申立人から意見陳述聴取

平成22年7月27日

審議(第一部会第55回審査会)

平成22年9月7日

実施機関から意見聴取及び審議(第一部会第56回審査会)

平成22年9月14日

審議(第一部会第57回審査会)

平成22年11月30日

審議(第一部会第58回審査会)

平成22年12月21日

審議(第一部会第59回審査会)

平成23年1月25日

審議(第一部会第60回審査会)

平成23年2月15日

審議(第一部会第61回審査会)

平成22年3月31日

答申

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