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掲載日:2024年4月2日

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答申第157号「特定土地改良区設立認可申請書のうち、同意署名簿」の部分開示決定(平成22年9月21日)

答申第157号(諮問第198号)

答申

1 審査会の結論

埼玉県知事(以下「実施機関」という。)が平成21年9月17日付けで行った、土地改良区設立認可申請書(○○土地改良区)のうち、同意署名簿(以下「本件対象文書」という。)の部分開示については妥当である。

2 異議申立て及び審議の経緯

(1) 異議申立人(以下「申立人」という。)は、平成21年9月7日付けで埼玉県情報公開条例(以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、実施機関に対し次の文書の開示請求を行った。

  • ア 作成期日=平成9年12月8日、作成者=○○土地改良区設立申請人代表、標目=「同意署名簿」の原本(=墨を塗らない前の状況)
  • イ 地権者の意見、要望等を取り入れた後の最終版の「県営○○地区換地計画原案図1000分1」(2分割)
  • ウ 「県営土地改良事業○○地区(担い手育成畑地帯総合農地整備事業)一時利用地指定図」で、計画区域全体を網羅したもの
  • エ 「畑地帯総合農地整備事業○○地区 現況計画平面図」で、1000分の1相当で計画区域を網羅した最新版

(2) これに対し実施機関は、上記アに係る公文書として本件対象文書を特定し、平成21年9月17日付けで次のとおり公文書部分開示決定(以下「本件処分」という。)を行い、申立人に通知した。

なお、上記イからエまでに係る公文書は、平成21年9月18日付けで公文書開示決定を行い、申立人に通知した。

  • ア 本件対象文書のうち「土地改良法(以下「法」という。)第5条第1項の一定の地域内にある土地につき法第3条に規定する資格を有する者(以下「3条資格者」という。)の住所、氏名、署名欄及び印影欄(設立申請人に係る部分を除く。以下同じ。)並びに市町村大字別同意集計表(住所別)(以下「集計表」という。)のうち同意者数(計を除く。以下同じ。)(以下「不開示情報1」という。)」は、条例第10条第2号に該当するため不開示とする。
  • イ 本件対象文書のうち「3条資格者の印影(以下「不開示情報2」という。)」は、条例第10条第2号に該当するため不開示とする。
  • ウ 本件対象文書のうち「3条資格者に該当しない者の住所、氏名及び署名(以下「不開示情報3」という。)」は、条例第10条第1号に該当するため不開示とする。

(3) 申立人は、平成21年10月19日付けで、実施機関に対し、本件処分の取消しを求めて異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。

(4) 当審査会は、本件異議申立てについて、平成21年12月17日に実施機関から条例第22条の規定に基づく諮問を受けた。

(5) 当審査会は、申立人から、平成21年12月24日に陳述書の提出を受けた。

(6) 当審査会は、実施機関から、平成22年1月19日に開示決定等理由説明書の提出を受けた。

(7) 当審査会は、平成22年2月18日に実施機関から意見聴取を行った。

(8) 当審査会は、申立人から、平成22年2月25日に反論書の提出を受けた。

(9) 当審査会は、実施機関から、平成22年5月11日に開示決定等理由補充説明書(以下「補充説明書」という。)の提出を受けた。

(10) 当審査会は、申立人から、平成22年6月14日に反論書の提出を受けた。

(11) 当審査会は、平成22年7月26日に申立人の口頭意見陳述を行った。

3 申立人の主張の要旨

申立人が主張している内容は、おおむね次のとおりである。

(1) 申立人が開示を求めている情報(住所、氏名、署名、印影欄及び印影)を条例第10条第2号に該当するとした実施機関の判断は、重大・明白かつ故意の誤りであり、これらは条例第10条第1号の個人に関する情報である。

(2) 法第29条の条文及び農林水産省の土地改良企画課監修の逐条解説によれば、同意署名簿は「事業に関する書類」に該当する。そのため、利害関係者からの閲覧申請を拒んではならないものであり、条例第10条第1号ただし書イに該当し、開示しなければならない。

(3) 申立人ら農家は、土地改良事業によって1.1反当たり108万円の金銭的負担を強制される、2.13%程の農地が無償で没収される、3.工事によって耕作土が剥離、破壊されてしまうなど、生活又は財産に重大かつ明白な損失がある。本件対象文書が開示されることによって、当該土地改良事業の不正が明確となり、申立人は損失が救済されるため、同意署名簿は条例第10条第1号ただし書ロに該当し、開示しなければならない。

(4) 土地改良区の現地においては、誰が推進派で、誰が不同意者であるかを皆承知していて、公になっているも同然である。そのため、営農条件に不利益な影響が及ぼされる等、実施機関の危惧するおそれは起きていないし、将来も起こる気配さえない。

印影については、そもそも社会通念上、文房具屋で山になっている三文印を取引に使うことはない上、印影の盗用をするような悪党はいない。被害妄想である。

4 実施機関の主張の要旨

実施機関が主張している内容は、おおむね次のとおりである。

(1) 不開示情報1について

すべて土地改良区設立に関する同意の意思表示についての情報であり、農家(事業を営む個人)の当該事業に関する情報に該当する。3条資格者の個々の意思決定が明らかになることにより、その意思決定に対する反対意見者からの圧力など、営農条件に不利益な影響が及ぼされる等、財産上の権利や営農上の地位を害するおそれがあると考えられる。そのため、法第8条第6項に規定する公告・縦覧によりその住所、氏名が公にされている者に係る部分を除き、条例第10条第2号に該当するため不開示とした。

また、署名欄及び印影欄並びに集計表のうち同意者数を開示し、個々の3条資格者の同意状況を明らかにすることは、組合員間の協力関係や信頼関係に悪影響を生じさせ、土地改良区の主な事業である土地改良施設の維持管理活動等、組合員同士の協力が必要な事業運営に支障を生じさせるおそれがある。よって、開示をすることにより、土地改良区(法人)の権利及び正当な利益を害するおそれがあり、条例第10条第2号に該当するため不開示とした。

さらに、これらの情報は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものであり、条例第10条第1号に該当することを予備的に主張する。申立人は条例第10条第1号ただし書イに該当する旨主張するが、法第29条第4項に規定する閲覧請求権を有する者は、土地改良区の組合員及び利害関係人に限られている上、正当な事由に該当する場合は、理事は閲覧を拒むことができる。よって、法令の規定により、何人でも知り得る状態におかれている情報ではないため、条例第10条第1号ただし書イに当たらない。

また、申立人は条例第10条第1号ただし書ロにも該当する旨主張するが、当該土地改良事業は土地改良法に定められた法手続に基づき適正に認可されており、当該土地改良事業が不正に行われているとの申立人の主張は根拠がなく、条例第10条第1号ただし書ロに該当しない。

(2) 不開示情報2について

印影は、事業を営む個人の対外活動において重要な意義を有するものであって、公にされることにより、偽造による悪用等により当該農家の財産権や信用等の正当な利益を害するおそれがあり、条例第10条第2号に該当するため不開示とした。

さらに、これらの情報は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものであり、条例第10条第1号に該当することを予備的に主張する。条例第10条第1号ただし書イ及びロに該当しないことについては、不開示情報1と同様である。

(3) 不開示情報3について

3条資格者の死亡や相続、誤記入等により、同意署名時点で資格を有しない者の住所、氏名及び署名は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものであり、条例第10条第1号に該当するため不開示とした。

5 審査会の判断

(1) 不開示理由の追加について

実施機関は、当初、不開示情報1及び2は、農家(事業を営む個人)の当該事業に関する情報であって、公にすることにより農家の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあり、条例第10条第2号に該当すると主張していた。しかし、当審査会に提出した補充説明書で、不開示情報1のうち住所及び氏名を除く情報が条例第10条第2号に該当することの説明として、土地改良区(法人)の権利及び正当な利益を害するおそれがあることを追加した。さらに、不開示情報1及び2について、条例第10条第2号に該当しないのであれば、条例第10号第1号に該当するとして不開示理由を予備的に追加した。

行政処分における理由の付記は、実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、不開示理由を開示請求者に知らせることによって、不服申立てに便宜を与えるために行うものである。そのため、当初の不開示決定における理由付けが十分でなく、不服申立てが行われた後に実施機関が不開示理由を追加することは、情報公開制度の運用上、必ずしも適切なものとはいえない。

しかし、最高裁判所平成8年(行ツ)第236号同11年11月19日判決が示すように、不開示理由の追加は認められないものではない。また、当審査会において、追加された不開示理由について審議しないまま答申をした場合、実施機関が当該不開示理由により再度部分開示決定を行う可能性も考えられる。

そのため、当審査会では、追加された不開示理由についても申立人に反論の機会を与え、条例第10条第1号と第2号の双方について審議を行った。

(2) 土地改良区について

土地改良区は法人であり(法第13条)、15人以上の3条資格者が設立申請人となり、一定の地域を定め、その地域に係る土地改良事業の施行を目的として都道府県知事の認可を受けることにより設立することができる(法第5条第1項)。当該認可の申請をするには、あらかじめ、土地改良事業の計画の概要や定款作成の基本となるべき事項等を公告して、事業施行地域内にある土地に係る3条資格者の3分の2以上の同意を得なければならない(法第5条第2項)。

3条資格者は、事業施行地域内の土地が農用地である場合は耕作者、非農用地である場合は所有者が該当するが、農業委員会が承認した場合は、農用地の所有者や、非農用地の使用・収益者が3条資格者となる(法第3条)。

(3) 本件対象文書について

本件対象文書は、法第7条の規定により、県知事に対して提出された土地改良区設立認可申請書に添付された同意署名簿であり、申請の要件となっている「3条資格者の3分の2以上の同意」を証するものである。

本件対象文書は、土地改良区設立認可申請の名簿(以下「名簿」という。)と集計表に分かれている。

名簿には住所、氏名、署名、印及び備考の各欄があるが、このうち住所、氏名及び備考欄は、設立申請人があらかじめ記載した部分である。土地改良区の設立に同意する者は、名簿に記載された自らの住所及び氏名の隣にある署名欄に氏名を記載し、印影欄に押印をするため、不同意者の署名欄及び印影欄は空白となっている。

集計表は、市町村大字別に資格者数と同意者数が記載されていて、さらに○○○及びそれ以外の市町村並びに全体の資格者数と同意者数の計及び同意率が記載されている。

(4) 不開示情報1について

  • ア 不開示情報1について実施機関は、農家(事業を営む個人)の当該事業に関する情報であり、3条資格者の個々の意思決定が明らかになることにより、その意思決定に対する反対意見者からの圧力など、営農条件に不利益な影響が及ぼされる等、財産上の権利や営農上の地位を害するおそれがあると考えられるため、条例第10条第2号に該当すると主張している。
    「事業を営む個人の当該事業に関する情報」とは、事業内容、事業用資産、事業所得など事業活動に直接関係する情報をいう。しかし、本件対象文書は、法第3条の資格者としての個人が、土地改良区設立について自己の内心を表明したもの、及びその集計結果である。また、先に述べたように、本来、法に規定する3条資格者には耕作者以外の者もなり得るものである。以上のことから、本件の3条資格者は全員耕作者ではあるものの、そのことをもって、本件対象文書に記載された情報が事業活動に直接関係するとは言い難く、農家の事業に関する情報であると判断することはできない。
  • イ 一方、実施機関はこれらについて、農家の事業に関する情報に該当しないのであれば、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものであり、条例第10条第1号に該当することを予備的に主張しているので検討する。

(ア) まず、住所及び氏名は、事業施行地域内にある土地について3条資格者に該当すると思われる者の住所及び氏名を、設立申請人があらかじめ記載したものである。3条資格者はすべて個人であることから、これらの住所及び氏名は個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものであり、条例第10条第1号本文に該当する。

(イ) 次に、署名欄及び印影欄は、土地改良区設立に係る同意・不同意の意思を表示した、個人の内心に関する情報である。3条資格者は、あらかじめ記載されている自らの住所及び氏名の隣にある署名欄に氏名を記載し、印影欄に押印をすることにより同意を、いずれもしないことにより不同意を表明している。よって、署名欄及び印影欄は、住所及び氏名と一体となって個々の3条資格者の意思表示を明らかにし、個人の権利利益を害するおそれがある情報であるため、条例第10条第1号本文に該当する。

なお、ひとまとまりの個人情報である住所、氏名、署名欄及び印影欄のうち、条例第11条第2項の規定に基づき、不同意である3条資格者について、空白の署名欄及び印影欄を部分開示することについて検討する。当該部分開示によって公にされるのは、不同意者の人数と不同意者が記載されている欄である。このうち不同意者の人数については、集計表で開示されている資格者数の合計から同意者数の合計を差し引くことによりわかるため、既に公にされている情報である。また、名簿に記載されている3条資格者の順序には規則性があり、さらに、設立申請人の欄は印影を除き既に開示されている。そのため、実際に署名をし、又はしなかった3条資格者においては、不同意者の欄がわかると、それが誰であるか特定できる可能性が高い。以上のことから、実施機関が3条資格者に係る空白の署名欄及び印影欄について、条例第11条第2項による部分開示を行わなかったことは、不合理とは言えない。

(ウ) 次に、集計表のうち同意者数は、同意をした者の数を大字ごとに記載したものであり、個人の氏名及び住所等が記載されているものではない。実施機関は、法第29条第4項の規定に基づき、土地改良区の組合員及び利害関係者は3条資格者の住所及び氏名が記載された組合員名簿の閲覧を請求することができるため、これらの者にとって集計表のうち同意者数は、個人の同意状況の特定につながるおそれのある情報である旨を主張している。

条例第10条第1号本文の「個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもの」には、他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができることとなるものが含まれる。一般的に、当該規定における「他の情報」とは、一般人が通常入手し得る情報が想定されるが、その範囲については、照合の対象となる情報の性質や内容等に応じて、個別に適切に判断することが必要となる。
そこで、集計表について、その情報の性質及び内容等を検討する。

上記(3)に述べたように、集計表は同意署名簿の一部であり、市町村大字別に3条資格者の数と土地改良区設立認可申請の同意者数が記載されている。○○土地改良区(以下「本件土地改良区」という。)の事業施行地域内の3条資格者は141人で、本件土地改良区の設立後、すべて本件土地改良区の組合員となっている(法第11条)。これらの者のうち約9割は事業施行地域内及びその隣接市町に住所を有していることから、本件土地改良区の組合員は、限定された地域で生活する者が多数を占める小規模な集団を形成しているといえる。このような集団の特徴から、集計表における個人識別性は、主として、集団内部において問題となるという特殊性があるため、「他の情報」の範囲については、本件土地改良区の組合員であれば知り得る情報も含めて考える必要がある。そのため、法第29条の規定に基づき、土地改良区の組合員及び利害関係者が閲覧することのできる組合員名簿を「他の情報」として、集計表と照合した場合の個人識別性について検討する。

上述のとおり、集計表に記載されている3条資格者は、本件土地改良区の設立後、すべて本件土地改良区の組合員となっているため、集計表には、市町村大字別の組合員の人数と、そのうち同意をした者の人数が記載されていると言い換えることもできる。そのため、組合員の住所及び氏名が記載された組合員名簿と集計表を照合することにより、大字ごとの資格者数と同意者数が同一である場合や、全員が不同意であったため同意者数欄に数字の記載がない場合には、各人の同意状況が明らかになる。さらに、上述のとおり、本件土地改良区の組合員は限定された地域で生活する者が多数を占める小規模な集団であるため、たとえこれらにあてはまらない場合であっても個人の同意状況が分かる可能性が十分にある。よって、集計表のうち同意者数は、組合員名簿との照合により特定の個人の同意状況が分かる可能性のある情報であり、開示をすることにより個人のプライバシーが侵害される危険性もある。

このことから、集計表のうち同意者数は、他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができるものであり、条例第10条第1号本文に該当する。

(エ) 以上のとおり、不開示情報1は条例第10条第1号本文に該当する。よって、これらについて条例第10条第1号ただし書の該当性を検討し、開示・不開示の判断をする。

本件対象文書について申立人は、土地改良区の組合員その他当該土地改良区の事業に利害関係のある者が閲覧請求することのできるものとして法第29条に規定する「事業に関する書類」に該当するため、条例第10条第1号ただし書イにより開示しなければならないと主張する。

法第29条は、土地改良区の理事は、定款、規約、事業に関する書類、組合員名簿等を主たる事務所に備え、組合員その他当該土地改良区の事業に利害関係のある者から閲覧の請求があった場合には、正当の事由がある場合を除いて、これを拒んではならないと規定している。しかし、条例第10条第1号ただし書イが、法令若しくは他の条例の規定により又は慣行として、何人でも知り得る状態におかれている情報について例外的に開示する規定であるところ、法第29条の規定に基づき閲覧の請求ができる者は、組合員その他当該土地改良区の事業に利害関係のある者に限られている。したがって、たとえ本件対象文書が申立人の主張するように「事業に関する書類」に該当するとしても、何人でも知ることができるものではない。よって、本件対象文書は条例第10条第1号ただし書イの法令若しくは他の条例により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報には該当しない。

なお、名簿のうち住所及び氏名は、本件土地改良区の組合員のリストとしての側面も持つが、法第29条の閲覧請求の対象となっている組合員名簿は、上記のとおり何人でも知ることができるものではない。よって、不開示情報1のうちに、条例第10条第1号ただし書イに該当する情報はない。

また、申立人は、本件対象文書が開示されることによって、当該土地改良事業の不正が明確となり、申立人の損失が救済されるため、本件対象文書は条例第10条第1号ただし書ロに該当し開示しなければならないと主張する。

法は、土地改良区の設立に係る手続を、次のとおり定めている。3条資格者のうち3分の2以上の同意があったときは、設立申請人は知事に対して土地改良区設立の認可を申請することができる(法第7条)。当該申請があったときは、知事は詳細な審査を行ってその適否を決定することとなっており、さらに、当該申請を適当とする旨の決定をしたときは遅滞なく公告し、その決定に係る土地改良事業計画書及び定款の写しを縦覧に供する(法第8条)。当該土地改良事業の利害関係人が当該公告に係る決定に対し異議があるときは、縦覧期間満了の日の翌日から起算して15日以内に知事に申し出ることができ(法第9条)、知事は、異議の申出がないとき、又は異議の申出があった場合においてそのすべてについて決定があったときは、土地改良区の設立の認可をしなければならない(法第10条)。

このように、土地改良区の設立は知事の詳細な審査と、利害関係人からの異議申出によりその適正な事務の遂行が担保されているが、本件土地改良区の設立に際しては異議の申出もなかったとのことである。本件土地改良区の設立については、法の規定に基づく手続を経て行われており、申立人の主張するような不正が疑われる事情は認められない。よって、個人情報を原則不開示とした条例第10条第1号本文の趣旨に反してまで開示する、人の生命、健康、生活又は財産を保護する必要性は認められないため、不開示情報1のうちに、条例第10条第1号ただし書ロに該当する情報はない。

さらに、本件対象文書に記載されている個人の情報は、公務員等の職務の遂行に係る情報ではないため、不開示情報1のうちに、条例第10条第1号ただし書ハに該当する情報はない。

(オ) 以上のとおり、不開示情報1は条例第10条第1号本文に該当し、ただし書のいずれにも該当しないため、実施機関が不開示としたことは妥当である。

なお、実施機関は、不開示情報1のうち住所及び氏名を除く情報が条例第10条第2号に該当することの説明として、これらの情報の開示は土地改良区の事業運営に支障を生じさせる、との主張もしている。しかし、上記のとおり、これらの情報は条例第10条第1号に該当するため、当該主張については改めて判断するまでもない。

(5) 不開示情報2について

  • ア 実施機関は、印影は事業を営む個人の対外活動において重要な意義を有するものであって、公にされることにより、偽造による悪用等により当該農家の財産権や信用等の正当な利益を害するおそれがあり、条例第10条第2号に該当するため不開示としている。しかし、本件の3条資格者が全員耕作者であることをもって、本件対象文書に記載された情報が農家の事業に関する情報であると判断することができないことは、上記(4)アで述べたとおりである。
  • イ 一方、実施機関が予備的に行っている、不開示情報2は個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものであり、条例第10条第1号に該当するとの主張は、印影が個人の氏名を記載したものであることから妥当である。そこで、条例第10条第1号ただし書の該当性を検討し、開示・不開示の判断をする。
    本件対象文書が条例第10条第1号ただし書イに該当しないことは、上記(4)イ(エ)のとおりである。また、設立申請人を除く3条資格者の印影が条例第10条第1号に該当するため不開示とすることが妥当であることは、上記(4)で述べた印影欄についての判断と同様である。よって、ここでは設立申請人の印影について検討する。
    3条資格者のうち設立申請人については、法第5条の規定により住所、氏名及び印影が公告されている。このことから実施機関は、名簿に記載されている設立申請人の住所、氏名及び署名は、条例第10条第1号ただし書イの法令により公にされている情報に該当するとして開示しているが、一方で、印影は不開示としている。当審査会において公告された文書を見分したところ、当該文書に設立申請人として押印された印影は、必ずしも名簿に押された印影と同一ではないことが確認された。また、たとえ同一であったとしても、公告は役場の掲示板に5日間掲示されたのみであり、現在も引き続き公にされている情報ではない。このような状況や、そもそも印影は押印された文書が真正なものであることを示す認証的機能を持つことを考慮すると、過去に公告されたことのみを根拠として、設立申請人の印影が条例第10条第1号ただし書イに該当するとはいえない。
    また、設立申請人の印影が条例第10条第1号ただし書ロ及びハに該当しないことは、上記(4)イ(エ)のとおりである。以上のとおり、不開示情報2は条例第10条第1号本文に該当し、ただし書のいずれにも該当しないため、実施機関が不開示としたことは妥当である。

(6) 不開示情報3について

3条資格者以外の者とは、3条資格者の死亡や相続、誤記入等により、同意署名時点で資格を有しない者である。これらの者の住所、氏名及び署名は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものであり、条例第10条第1号の本文に該当する。そこで、条例第10条第1号ただし書の該当性を検討し、開示・不開示の判断をする。

本件対象文書が条例第10条第1号ただし書イに該当しないことは、上記(4)イ(エ)のとおりである。また、記載されている3条資格者以外の者の情報について、公にすることを規定した法令等やこれらの情報を公にする慣行もないため、不開示情報3は条例第10条第1号ただし書イに該当しない。さらに、不開示情報3が条例第10条第1号ただし書ロ及びハに該当しないことは、上記(4)イ(エ)のとおりである。

以上のとおり、不開示情報3は条例第10条第1号本文に該当し、ただし書のいずれにも該当しないため、実施機関が不開示としたことは妥当である。

以上のことから、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

(答申に関与した委員の氏名)

磯部 哲、尾崎 康、加々美 光子

審議の経過

年月日

内容

平成21年12月17日

諮問を受ける(諮問第198号)

平成21年12月24日

申立人から陳述書を受理

平成22年1月19日

実施機関から開示決定等理由説明書を受理

平成22年1月21日

審議(第二部会第52回審査会)

平成22年2月18日

実施機関から意見聴取及び審議(第二部会第53回審査会)

平成22年2月25日

申立人から反論書を受理

平成22年3月18日

審議(第二部会第54回審査会)

平成22年5月11日

実施機関から開示決定等理由補充説明書を受理

平成22年5月17日

審議(第二部会第55回審査会)

平成22年6月14日

申立人から反論書を受理

平成22年6月28日

審議(第二部会第56回審査会)

平成22年7月26日

申立人の口頭意見陳述及び審議(第二部会第57回審査会)

平成22年8月30日

審議(第二部会第58回審査会)

平成22年9月21日

答申

お問い合わせ

総務部 文書課 情報公開・個人情報保護担当

郵便番号330-9301 埼玉県さいたま市浦和区高砂三丁目15番1号 埼玉県衛生会館1階

ファックス:048-830-4721

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