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掲載日:2023年12月5日
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緑豊かで活力あふれる三富地域を目指して
-みどりの三富地域づくり懇話会提言-
平成13年4月12日
この提言は、みどりの三富地域づくりを進めていくための施策の
方向性について取りまとめたものです。
ここにその結果を提出します。
平成13年4月12日
埼玉県知事 土屋義彦 様
みどりの三富地域づくり懇話会
会長 恒松制治
(1)背景
三富新田とその周辺地域(以下「三富地域」という。)は、江戸時代の武蔵野の新田開発により、屋敷地、農地、平地林を一体とした、三富独自の循環型農業や農村文化を形成するとともに、美しい景観を持つ武蔵野の面影を現在まで伝えてきた。首都近郊にありながらも三富地域に広大な農地と平地林が残されたのは、平地林の恵みを活用した農業を続けることや自然を守っていくことに誇りを持った地域の人たちの共通した思いと努力によるものである。
また、三富地域では、農地や平地林を有機的に連携させることにより、落ち葉堆肥を活用した地力の増強と保持、保水力の向上など、様々な固有の機能を生み出しており、これを現代に生かすことが期待されている。
しかし、近年、薪炭林としての利用や堆肥となる落ち葉の供給源等としての役割が減少したことから、平地林の荒廃が進むとともに、都市化に伴う様々な土地需要や多額の相続税負担を契機とした土地売却などから平地林の減少が進み、土地利用の混乱や地域環境の喪失を引き起こしている。さらに、ダイオキシン報道を始めとする廃棄物焼却施設をめぐる一連の問題により、農家を中心とした地域住民はその誇りと自信を傷つけられ、農業や生活に対する不安が広がるなど、地域の在り方が問われているところである。
今後、三富の農地や平地林をかけがえのないものとして、次世代に継承する方策を検討するとともに、近年発生した様々な課題に対処するため、その保全・活性化策を総合的に進める必要が生じてきたものである。
(2)趣旨
この提言は、三富地域に関心のある有識者と三富地域で活動する農業者や住民等の率直な意見交換を集約したものである。この趣旨を踏まえ、歴史と文化に培われた武蔵野の面影を今に伝える三富地域の魅力と価値を再発見・再評価し、緑豊かな自然環境を生かしながら、安全で生き生きとした地域を創造、形成するため、埼玉県、川越市、所沢市、狭山市、大井町及び三芳町の行政と農業者、地域住民、さらに、都市住民が連携して、新しい地域づくりを推進することに期待する。
(1)三富地域を取り巻く諸情勢
工業を中心とした産業の発展と都市化の進行は、便利で豊かな社会を実現する一方で、大量生産、大量消費、大量廃棄という経済活動・生活様式により、我々の身近に生じた都市・生活型公害という新たな問題を引き起こしただけでなく、地球規模での環境破壊へと拡大・深刻化している。こうした環境問題の拡大と深刻化により、地球全体が、天然資源の有限性や地球環境への負荷を与え、1992年には、地球サミット(環境と開発に関する国連会議)がリオ・デ・ジャネイロで開かれ、持続可能な開発を宣言するなど、これまでの経済活動や生活様式を見直す動きが国際的に広がってきている。
こうした時代の潮流を受けて、人々の価値観や生活様式にも変化が見られ、「物の豊かさ」から、自然とのふれあいや人と人との結びつきなどの「心の豊かさ」を大切にする傾向が広がっている。また、積極的に社会に参加、貢献しようという意識が高まる中で、ボランティア活動やNPO(民間非営利組織)活動が展開されつつある。さらに、飽食ともいえる食の豊かさが進む一方で、健康や安全を重視する消費者が増え、減農薬農産物、有機農産物や健康食品などへの需要が増加している。
(2)三富地域の位置
三富地域は県の南西部に位置する。狭山丘陵や荒川流域の田園地帯、見沼田圃などとともに、埼玉県における首都圏30キロ圏に残された大規模緑地の一つである。
その三富地域は、東京を中心に放射状に延びた東武東上線、西武新宿線の鉄道沿線市街地に囲まれた、川越市、所沢市、狭山市、大井町、三芳町にまたがり、約3,200ヘクタールの広がりを持つ。
地形区分は、東京都と埼玉県にまたがる武蔵野台地といわれる平坦な洪積台地であり、地質は火山灰が堆積してできた、通称赤土と呼ばれる褐色の関東ローム層からなっている。
(3)三富地域の歴史・文化
三富地域の歴史・風土は、中世までの武蔵野のカヤの原の時代と近世以降の畑作を中心とした農村の時代に大きく分けることができる。
三富地域を含む武蔵野は、中世までは、鎌倉時代の「新古今和歌集」や「後撰和歌集」などに登場するようなカヤなどの広がる原野であった。この地域は、昔から水利の便に乏しいため、深井戸があちこちに掘られ、狭山市の堀兼神社の境内には、枕草子で紹介された「ほりかねの井」と呼ばれる大井戸の跡が残っている。
三富地域の農村集落は、江戸時代に入って、松平信綱、柳沢吉保などの歴代川越藩主の新田開発により形成されたものである。この地域の開発の特徴は、既存の街道を利用するか、新たに道路を敷設して、その道路に沿って住まいを配置し、原野を畑に開墾するとともに、コナラやクヌギなどを植林して平地林を造ったことである。特に、柳沢吉保が開墾した所沢市と三芳町にまたがる三富新田は、道路を縦横に造り、一農家5ヘクタールの土地を、道路に面した方から屋敷地、農地、平地林の短冊型に区画した地割を基本とした開発を行い、今日までその地割の形態を伝えている。この開発の時、入植者たちの精神的な拠り所として多福寺(三芳町上富)、多聞院(所沢市中富)の一寺一社が建立された。
かつての三富地域では、農業生産や日常生活のため、平地林の落ち葉を堆肥源として使用したり、15年から20年サイクルで伐採した木を薪や炭などにして利用していた。江戸時代後期には、新河岸川の舟運などを使って、この地域の野菜や薪を江戸に出荷し、江戸からは日用品のほか糠や灰などを持ち込み、畑に還元するといった地域循環型の社会経済システムが形成されていった。
(4)三富地域の産業・経済
三富地域の中心的産業は農業である。この地域の農業の特色は、露地栽培を中心とした野菜生産である。1戸当たりの平均耕地面積が1ヘクタール以上と大きく、県内はもとより東京を始めとした京浜市場に出荷され、首都圏有数の野菜生産地となっている。主な野菜品目には、ほうれんそう、さといも、かぶ、にんじん、ごぼう、チンゲンサイなどがあり、「富のいも」として昔から親しまれているサツマイモの生産も盛んに行われている。
また、道路交通条件などの外的変化や安定的な農業外収入を確保しようとする営農環境の変化などから、所沢インターチェンジ周辺や幹線道路沿いには平地林、農地が開発された物流施設や工場などが進出し、この地域の新たな産業を形成しつつある。
(5)三富地域の自然環境
三富地域は、台地上にあって、河川が少なく、二次林である平地林、屋敷林と農地がこの地域の自然環境を形成している。江戸時代の新田開発以降に、農業などで人が関わることにより、この地域の自然環境が形成、維持されてきた。
平地林の植生は、コナラ、クヌギ、アカマツなどからなる、いわゆる「武蔵野の雑木林」と呼ばれる樹林地で、薪炭、堆肥の供給源として農家の生活を支えてきたものである。また、屋敷林にはケヤキ、カシ、タケ、スギ、ヒノキなどが植えられ、道具財や建築資材として利用されていた。
ほ乳類は、キツネ、タヌキ、ノウサギ、アズマモグラ、ハタネズミ、アブラコウモリなどが見られる。鳥類は種類、個体数ともに多く、ヒバリ、ホオジロ、モズ、ツミ、アオゲラ、オオタカなど平地林や耕作地周辺に見られる主要な鳥はほとんど見ることができる。このほかにも、トカゲ、ヘビ等のは虫類やカブトムシ、クワガタ、タマムシといった昆虫など、多くの野生生物の生息が確認されている。
(6)三富地域の土地利用
三富地域の土地利用の現状は、大きく分けて農地及び平地林と道路その他の都市的土地利用である。高度経済成長による都市化の進展が著しい昭和36年(1961年)から40年間の土地利用の推移を見ると、農地が25%、山林が44%それぞれ減少し、宅地や雑種地などに転換しているものの、現在でも、農地と平地林で全体の7割を占めている。
三富地域の半分近くは農地で、ほとんどが野菜畑である。また、平地林は、標高・傾斜度が類似した埼玉県内の他の市町村と比べると、土地利用全体に占める割合が約5倍と多く、この地域の土地利用の特徴となっている。都市的土地利用では、幹線道路沿いや所沢インターチェンジ周辺に業務施設が立地し、六間道路などの旧道沿いには農村集落が形成されているとともに、廃棄物焼却施設、資材置場、駐車場、墓園などの非建築系の土地利用が介在している。
土地利用計画上は、ほとんどが市街化調整区域で、農地のほとんどが農用地区域となっている。また、地域森林計画対象民有林や県条例に基づくふるさとの緑の景観地の指定を受けている平地林が多く、自然環境保全地域や鳥獣保護区に指定されている区域もある。さらに、三富新田地区は、旧跡の指定を受けている。
三富地域における課題は、この地域で行われている循環型農業が「持続可能な開発」の原型として再びその価値を見なおされつつある中で、その特徴を示す緑地環境や基幹的な産業である農業の今日的意義を問い直し、地域秩序の在り方を改めて検討していくことにある。そこで三富地域の問題点を様々な角度から検討し、具体的な課題を次の4つの角度から整理した。
(1)平地林
ア 平地林と相続税
三富地域の平地林の評価額は、近年低下する傾向にあるものの、バブル期前と比べ依然として高いため、相続税が大きな負担となっている。また、農地のような納税猶予特例措置がないこともあり、首都圏30キロ圏という地理的な条件による土地需要と相まって、平地林の減少の大きな要因となっている。こうしたことが、営農意欲を阻害し、三富独自の農業の継続に大きな障害となっている。
イ 緑地保全制度
各種緑地保全制度には、相続税負担の軽減措置を持つものや地域の緑地環境の向上を図るものなど、平地林の減少を抑制する効果の高い制度がある。しかし、緑地保全制度を活用するための条件整備が不足していることなどのため、三富地域ではこうした制度が十分に活用されていない現状にある。
ウ 維持管理
三富地域の平地林は、15年から20年周期で伐採、萌芽更新を行うことにより維持されてきたが、薪炭林としての利用や堆肥となる落ち葉の供給源等としての役割が減少するなか、労力や費用などの問題からこうした維持管理が十分には行われなくなっている。
(2)農業
三富地域では、専業農家も多く、農家1戸当たりの経営耕地面積が広く、露地野菜栽培が活発である。しかし、耕作放棄地が目立ち始め、面積は小さいものの、耕作環境の悪化など周辺農地へ与える影響は非常に大きい。
また、近年、海外農産物の輸入量の増加や価格の低迷が見られており、市場出荷を中心とした三富地域の農業経営に大きな影響を及ぼしている。
さらに、平地林の落ち葉を堆肥源としてきた三富地域の伝統的農法は、持続的農業としては模範的なものであるが、平地林の維持管理状況などから、これまでの循環型農業を展開することは容易ではない状況にある。
(3)歴史・文化
ア 歴史的・文化的意義
三富地域では、江戸時代、武蔵野の原野を屋敷地、農地、平地林が一体となるよう新田開発し、独自の循環型農業を確立した。そして、それが農村文化とともに農業によって受け継がれ、今もこの地域を支えている人たちの生活が営まれている。また、その地割景観と歴史的意義を文化遺産として守るため、旧跡に指定されている。
三富独自の地割はこの歴史、文化の象徴ともいえるものであり、現在の生活にも生かされているが、こうした三富地域の歴史的、文化的意義について十分理解されていない
イ 地域資源
地割景観をはじめとする三富地域の様々な地域資源は相互の関連性が弱く、あるいは埋もれており、その価値や魅力を発揮し、地域のイメージアップと地域振興を進めるための積極的な活用が未だ不十分である。
(4)土地利用
三富地域では、都市的な土地利用により、江戸時代の新田開発による屋敷地、農地、平地林が一体となった武蔵野の面影を残す景観が失われつつある。その中には、廃棄物焼却施設や資材置場などの非建築系の土地利用も多く見られるが、開発規模が小さく法規制の対象とはならないものもあり、実態把握が困難な状況にあるとともに、ダイオキシン問題との関連も指摘されている。
また、都市計画道路東京狭山線の開通による交通利便性の向上や、都市計画法の改正による規制緩和などが予定されており、今後、土地利用に関する環境が変化することが予想される。
300年からの歴史を持つ三富地域の価値と魅力は、生活の場である屋敷地と生産の場である農地と自然の恵みをもたらす平地林、つまり「生活・生産・自然」が一体となった、三富独自の循環型農業と農村文化を形成してきたことにある。屋敷地と農地と平地林が織りなす美しい景観は、先人の英知と努力により作り上げられた農業と文化に支えられているものであり、武蔵野の面影として今日に伝えられているものである。
新農業基本法では、食料の安定供給の確保だけでなく、多面的機能の発揮についてもうたっているが、三富地域が歴史的に形成してきた様々な多面的機能を持続可能な循環型社会の啓示として生かしながら、豊かな自然環境を守りつつ、安全で生き生きとした地域を創造、形成する。
そのため、前章で検討された様々な課題を踏まえながら、その解決に向け、行政と地域住民や地域団体等がそれぞれの役割を分担して、相互に連携し、一体となって、三富地域づくりに向けた施策、事業、活動を進めていく。
(1)緑豊かな環境の推進―武蔵野の面影を次世代に残す―
ア 平地林の保全と活用
三富の平地林を武蔵野の面影として次世代に引き継ぐため、萌芽更新や落ち葉掃きなど適切な維持管理に努め、農用林として、また、都市の中の身近な緑として、さらに、野生生物の生息空間として、積極的な保全と活用を図る。
イ 三富独自の緑の創造
三富地域の魅力を高め、地域資源を生かした緑豊かな環境の創造に向け、屋敷地、農地、平地林などの連続性を確保し、有機的に結びつけることにより、野生生物の移動や景観の連続性に配慮した三富独自の緑のネットワークを創造する。
(2)三富農業の振興―循環型農業を核として―
ア 安全、安心、信頼できる農業の確立
歴史と文化に培われた安全で安心な「三富野菜」として、多くの消費者の信頼と支持を得ることにより、持続的で安定した農業を確立していく。そのため、安全、安心、信頼できる農業の確立に向けた環境を整え、市場出荷を中心とした土地利用型農業を引き続き展開するとともに、新たな流通、販売にも対応した「顔の見える農業」を推進していく。
イ 循環型農業の展開
循環型農法を確立してきた三富農業の伝統を持続可能な循環型社会の先駆的な取組へと発展させるため、三富農家と畜産農家などが提携して取り組む安全で高品質の農産物の地域循環システムを構築し、環境と調和のとれた新たな循環型農業を形成、展開する。
落ち葉を活用した堆肥製造施設の設置
都市住民による落ち葉掃き等の実施
ウ 都市と田園の交流の促進
「三富野菜」を提供する生産者とそれを享受する消費者との交流、三富地域の農作業やヤマ仕事を指導する農家とそれらを体験する都市住民との交流など、様々な場面で都市と田園の交流を促進する。
(3)歴史・文化の発信・継承―三富の魅力を全国に―
ア 三富独自の歴史的景観の継承
屋敷地、農地、平地林が一体となった三富独自の歴史的景観を全国に発信し、国民的支持を得て地域の誇りとなるよう地域イメージの向上を図る。そして、この美しい地割景観を育む循環型農業によって生産された「三富野菜」の知名度をさらに高めていく。
イ 地域資源を生かした活動の進展
近年、新しい取組として各地で進められている田園空間博物館などの理念を生かしながら、三富独自の地域資源を発見・活用して、農業者や地域住民、さらに、周辺の都市住民による地域活動を展開する。
また、三富地域の優れた歴史・文化や農業・環境を学校教育、生涯学習の場で活用することにより、三富地域の魅力を発揮し、生き生きとした地域を形成する。
(4)新しい地域づくりの推進―先駆的モデル地域の実現のために―
ア 秩序ある土地利用の確立
計画的な土地利用を進めるとともに、緑地や歴史的景観などの保全と活用を図り、より良い地域環境づくりを進めるため、地域住民が主体的に地域の将来について考え、地区ごとの土地利用の特性を踏まえたルールを作成する。
イ 廃棄物焼却施設等への対応
ダイオキシンを含めた大気汚染・土壌汚染・水質汚染への対策や廃棄物の不適正処理などへの対策を徹底するとともに、廃棄物の発生抑制や再資源化など、広域的な環境問題として積極的な対策を進める。
ウ 行政と住民の役割分担と連携
三富地域の新しい地域づくりに向けて、行政と地域住民や地域団体等がそれぞれの役割を分担して、相互に連携していくための様々な施策、事業、活動を進める。
※ 平成17年10月1日に大井町と上福岡市が合併し、ふじみ野市となりました。
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