インタビュー・コラム

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掲載日:2025年3月5日

令和6年度 農業女子交流会

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2025年2月15日(土曜日)農業女子交流会

埼玉県では、働きたい女性・働く女性が抱える育児や健康などの課題の解決及び様々な業種への理解を深めるセミナーや交流会を実施しています。
2025年2月15日(土曜日)に「農業女子交流会」を開催しました。
女性3人で新規就農&起業した女性に、農業に入ったきっかけや農業の良いところ・やりがいなどについてお話していただきました。

登壇者プロフィール

・サカール 祥子 氏(合同会社十色 代表社員)

学生時代に、さいたま市の見沼福祉農園でボランティアとして活動。大学院を卒業後、見沼田んぼの農福連携のNPO法人で、農業体験イベントを企画・実行する事業に携わる。障害の有無や性別、年齢、国籍などに関わらず様々な人が活躍できる場を作りたい」という思いから、NPO法人で知り合った女性2人と2021年3月に、合同会社十色を設立。

「畑はエンターテインメント」をテーマに、「さいたまを激辛の聖地に!」をキャッチコピーとし、世界各国の唐辛子の品種(※)を栽培。

※ハラペーニョ、牛角とうがらし、韓国とうがらし、島とうがらし、プサジュエラ、スパングルス など

農業の世界に入ったきっかけ

私は、学生時代に、さいたま市の見沼田んぼで農福連携(※)のNPO法人のボランティアをしており、大学卒業後は、障害福祉事業を行うNPO法人で、農福連携のイベントとして農業体験の企画・運営に携わりました。コロナを機に、自身のやりたいことについて改めて考えるようになり、「このままこの仕事を続けていくのか。」「もっと楽しいことはできないだろうか。」という思いが膨らみ、農福の「農」にだんだん興味が移っていきました。ちょうどその頃、副業でNPO法人に勤務していた同僚2人も、本業の在宅勤務化によって、人や自然との関わりが希薄になっていくことに悩みを抱えていました。

3人の人生の転機が同時期に重なり、農業に軸足を置いて、学生時代から慣れ親しんだ見沼田んぼで、障害の有無に関わらず、誰もが農業で活躍できるような場所を作りたいと思い、2021年に合同会社十色を立ち上げました。

※農福連携:障害者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取組。(出典:農林水産省ウェブサイト

十色
   

始める前に考えたことー団体の形成

まず考えたのが、団体の形態です。私たちはNPO法人での活動を通じて、「農地を保全したい。」「障害のある人もない人も、女性でも男性でも活躍できる場所を作りたい。」という強い社会貢献意識を持っていました。当初は、NPO法人という形で活動を始めることも検討しましたが、様々な人が活躍できるためには、安定した収入を得られる仕組みが必要だと考え、農業を通じて「稼ぐ」ことの重要性に気づきました。きちんと農業を会社としてやっていくために、合同会社に決めました。

始める前に考えたことー農法

次に農法です。日本で一般的に広く普及している農薬や化学肥料を使った「慣行農法」や、農薬や化学肥料を使わず、有機肥料などの有機資材を用いた「有機農法」があります。私たちは、農業体験のイベントなどを通して、生物多様性や生態系を守ることを伝えてきたり、見沼田んぼを保全していきたいという思いがあったため、私たちは有機農法を選びました。

そして、感覚的な有機ではなく、イベント参加者に、有機農法の意義や具体的な方法を科学的な根拠に基づいた説明をするため、現在も知識を深めながら試行錯誤しています。

農法の次に、設備の調達をしました。一般的な畑の面積は、20m×50m=1000平方メートル(10アール)が1単位とし、「一反」とも呼ばれます。私たちはそのような畑を6つ借りて、60アール(6,000平方メートル)の広さで農業をスタートしました。この規模の畑を耕作するに、中古トラクターと草刈り機2台を購入し、畝を作るための土寄せ機を借り、資材を保管するための倉庫も新たに建設しました。

始める前に考えたことーいろんな人たちが活躍できるための規模

次に考えたのは、「いろんな人たちが活躍できるための規模感」です。ボランティアではなく、きちんと収入を得るためには、どの程度の規模で農業を行うべきか検討し、何となくですが、売上目標を約1億円と設定しました。この金額であれば、人件費や機械の更新など、事業を維持していくための費用を賄えるのではないかと考えましたが、1億円という売上目標を達成することは容易ではありませんでした。特に、直売や個人向け販売のみでは、実現不可能な金額であることがすぐに分かりました。

例えば、里芋を一反(10アール)で収穫した場合、1回の収穫で得られる収入は約25万円です。農協からも「一反一作30万円を目指せ」と言われますが、それでも6反で150万円にしかなりません。そのため、芋やキャベツなど収穫したら終わりとなる作物ではなく、1株から年間を通して継続的に収穫できる作物を栽培し、業務用販売をメインターゲットとして、事業を拡大していくことに決めました。

さらに、少量多品種で農業を行う場合、1回の収穫で30万円の収入を得ても、その後は同じ畑で別の作物を栽培する必要があります。例えば、葉物であれば同じ畑で1年間に3回、ハウスがあればさらに多くの収穫が可能です。このように、畑の利用方法を工夫し、限られた面積で年間を通して多くの収入を得るための計画が必要です。

始める前に考えたことー事業内容

事業内容は、楽しいことから始めて仕事を続けられるようにという思いから「農業体験」と「十色とうがらしファーム」にしました。遊び心を大切にすることが重要だと考え、どちらもエンターテインメント要素を多く取り入れています。

安定した収入を得るまでの道のりは長く、すぐに収益を生み出すことは容易ではありません。起業したのが3月ということもあり、夏の作物の種まきをしても間に合わず、苗を購入して植えても収穫までに時間がかかります。また、新規就農者は最初から広い面積の土地を借りることは難しく、計画性と管理能力が求められます。そのため、狭い面積でも対応可能であり、私の強みである「農業体験」を最初の軸にし、継続することにしました。

作物は、有機農法で始められることが多い「少量多品種」の栽培に挑戦しました。しかし、常に数か月先の計画を立て、細かく管理する必要があり、私たちには向いていないと判断した結果、唐辛子を選びました。唐辛子は、楽しさ、収益性、そして私たちの価値観に合致する作物でした。一反(10アール)でどれくらいの収入が見込めるのかという点も考慮しました。また、唐辛子を熱心に探している人に出会う機会も多く、会話が弾むことが多かったです。農業体験は、将来大きく成長する事業ではないと考えていたため、補助的な事業として位置づけ、メイン事業は作物の生産にしようと決意しました。

唐辛子は夏の作物なので、冬は休む予定でしたが、売り込みをしていかないと売れない作物だったため、冬の間も展示会への出展や準備、畑の整備や種まきなど、休む暇がありません。それでも、楽しい要素のある事業を続けたいという気持ちで、「農業体験」と「十色とうがらしファーム」を運営しています。

体験
農業体験
とうがらし
十色とうがらしファーム

始めてから考えたこと

まず直面したのが販路の確保です。唐辛子は、埼玉の特産品でもないため、本格的に販売するにはどこに販売すればいいのか、全く見当がつきませんでした。個人への販売では、大きな収益は見込めません。作り始めてから販路を探すのは遅すぎると感じながらも、実際には商品がなければ買ってもらえません。見たことがなければ、どんなものか理解されず、購入に繋がらないのです。

加えて、農業に関する技術や知識の習得も課題でした。農業大学校に通っておけば良かったと、今になって思います。私は農業大学出身ですが、造園学科専攻のため、近隣の農家さんを手伝う程度でした。畑の面積の規模や作物、栽培方法など自分が考えている規模感にマッチしていたとは言えず、頻繁に壁にぶつかっています。そのため、事業を開始してから試行錯誤を繰り返しています。どんなに勉強しても、実践を通して学ぶことはたくさんあると感じています。

また、本格的に経営するにあたり、事業計画やビジネスプランはもっと詳細な計画を立てるべきでした。農業大学校では、販売や事業計画に関するサポートもあるそうですが、私たちは農業関係の団体ではなく、スタートアップ向けのビジネス支援団体に相談しました。農業技術が未熟だったため、農業関係者に相談してもなかなか受け入れてもらえなかったり、そもそも唐辛子の販売に対して理解を得られなかったり、計画自体も甘かったため、きちんと説明することができませんでした。しかし、スタートアップ向けの支援団体では、丁寧に教えてもらうことができ、自分のビジネスプランを見直すきっかけになりました。さらに、ビジネスプランコンテストやSAITAMA SMILE WOMENピッチにも参加し、外部からの評価を得ることで、自分のプランを客観的に見られるようになりました。

現在は、事業計画やビジネスプランを半期に1回程度見直し、改善するようにしています。税理士からも月1回のチェックを受け、キャッシュフローを管理し、人件費や冬の収入の不足などを分析しています。

立ちふさがる壁

  • 農業大学校などで正規の訓練を受けてこなかったため、技術や知識が不足しており、周りの農家さんから注意されることも多々あります。草が生えていると、「あそこの畑、草が生えているな」と指摘され、夏場は、毎日何かしら言われる状態です(笑)。草刈りは定期的に行う必要があるのですが、どうしても遅れてしまうこともあります。特に昨年は、夏の暑さで草の勢いが強く、2週間に1回、すべての畑の草刈りをしても、すぐに伸びてしまい、草刈りが私の主な仕事になってしまいました(涙)。
  • 資金と設備が不足しており、特に設備は、近隣の農家さんに借りながら何とかやりくりしています。
  • 新規就農で有機農法を始めたものの、近隣の農家さんは慣行農法が主流で、有機農法に特化した専門家もなかなか見つかりませんでした。相談できる場所が限られている中、県の農林振興センターは、様々な課題について一緒に考えてくれ、とても頼りにしています。
  • 夏の暑さと人手不足は、農業だけでなく、どの業界でも共通の課題です。農業に興味を持つ女性が増えており、毎年パートを募集すると、多くの人が応募してくれます。しかし、昨年は20代の学生アルバイトが1週間でバテてしまい、60歳以上の人は暑さで働けませんでした。30代、40代の人は、子育てなどで出勤時間が遅くなるなど、様々な事情を抱えており、夏場の労働は非常に厳しい状況です。

数々の失敗

  • 雑草との戦いは、終わりが見えません。下の写真は何の作物かお分かりにならないかもしれません。これは唐辛子です。面積が増えると、雑草を抑えるためのマルチシート代が数十万円単位で発生し、資金繰りが厳しい時期には大きな負担になります。経費削減でマルチシートを敷かなかった結果、写真のような状態になってしまい、失敗を痛感しました。

草刈り

  • トラクターがぬかるみにはまることもあります。たまたま通りがかった農家さんがユンボで助けようとしてくれたのですが、ユンボもはまってしまい、結局、大木を倒す専門の業者に頼んで、滑車で持ち上げる羽目になりました。田んぼにトラクターが沈んでしまうこともよくあるのですが、水が入っている状態だと、人力で引き上げるしかありません。ベニヤ板を持ってきて、タイヤの周りに土手を作り、スコップを使って人力で泥を掻き出すのです。1日で終わらず、次の日に持ち越すとさらに沈んでしまうため、暗くなる前に頑張って掻き出しています。

沼

  • 売り先が決まっていないのに収穫してしまい、結局は廃棄するケースもあります。また、草が生えないようにマルチシートを敷いても草が生えてきますし、収穫した後も保管状態が悪くて腐ってしまうなど、様々な問題に直面しています。

あの手この手で前へすすむ

クラウドファンディングやスタートアップにお世話になったり、ビジネスコンテストに出たり、スタートアップの仲間との異業種コラボをしたりしました。ヨーロッパ野菜研究会にも参加し、近隣の農家さんから教えを乞うています。

そして、農業見学や講演、取材など、唐辛子を知ってもらうための活動を精力的に行っています。展示会にも積極的に出展し、何かとプレスリリースを出しています。何よりも大切なのは、唐辛子を広く知ってもらうことです。埼玉県の農業関連部署や農林関係者、福祉団体など、多くの方々に助けられながら、なんとか事業を続けています。

農業を続ける理由

屋外で体を動かす仕事なので、ストレスが溜まることはほとんどありません。それに、仲間と目標に向かって一緒に頑張る喜びも味わえます。自分たちのアイデアが形になっていく過程も楽しいですし、様々な人との出会いも刺激になります。

皆さんはどんな農業がしたいですか

農業を始める前に、どんな農業をしたいのか、明確なイメージを持つことが重要です。
何となく「作る」ことを楽しむだけでは、事業として成功させるのは難しく、本格的な農業は経営的な視点が必要です。

事業にする場合、まず考えなければならないのは販路です。作る技術は様々な支援があるとして、販路こそが重要になります。
どんな人に、どんな形で販売したいのか、こだわりの野菜を追求する消費者層に絞るのか、幅広い層に販売したいのか。販売地域も、埼玉県内限定なのか、広域展開を目指すのかによって、営業方法や必要な設備は大きく変わってきます。

また、規模が大きくなると、1人では作業が困難になります。畑が大きくなり、マルチシートを敷く時など手伝ってくれる人がいないと厳しい場面が出てきます。誰と農業がしたいのかも考えてみるのもいいと思います。

最後に、私たちと一緒に失敗を恐れずに農業に挑戦してみませんか?唐辛子の収穫時期には、パートやボランティアを募集していますので、お気軽にご参加ください!
 

【農業女子交流会の様子】

様子1

様子2

 

※農業に興味のある方は参考にしてください。
   農業を始めたい方への支援(埼玉県農業支援課)

 

 

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