インタビュー・コラム
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掲載日:2025年3月27日
女性リーダーから学ぶチーム作り(2025年3月10日実施)
働く女性応援講座 ~特別講座~ いつかはなりたい自分へ
埼玉県女性キャリアセンターでは、2025年3月10日に「働く女性応援講座~特別講座~」を開催しました。
県内で活躍する女性経営者を招き、働く女性のキャリア形成についての意識・モチベーションや、職場の悩み解消法についてお話しいただきました。民間企業・団体での勤務を経て経営者となられた方で、様々な苦労や難題を乗り越えてきた経験を持つ女性です。
今回の講座では、働く女性なら誰でも共感できる悩み・疑問について、それぞれの視点からお話しいただきました。
■パネリスト
石田 美枝 氏(株式会社Office Nutrie 代表取締役)写真左
山本 佳奈子 氏(株式会社アクシス 代表取締役)写真中央
■コーディネーター
内田 奈美 氏(ロイドサポート行政書士事務所 代表)写真右
<プロフィール>
石田 美枝 氏
母の乳がん闘病を経験し、栄養士として治療よりも予防の大切さを強く意識する。大学卒業後、さいたま市(旧与野市)に栄養士として就職。事務職として、大宮、浦和、与野の3市合併プロジェクトに携わった後、学校給食の栄養士として現場へ異動。子育てと仕事の両立に奮闘する中、東日本大震災を機に自分のキャリアと家族のあり方を見つめ直し、フリーランスに転身を決意。様々な仕事に挑戦し、1万食の給食を作ったなど過去の実績を数値化することで自信と強みを見出すも、1人で抱えきれない限界を感じ、社会貢献にチームで取り組むことを目指し、法人設立。
母の言葉「誰かが何となく生きた1日は、誰かにとってどうしても生きたかった1日である」を胸に、健康で生きることは自由に生きることにつながると考え、誰もが自分らしさを大切にしながら生きていける社会の実現を目指している。
家族構成:夫、長女、次女、長男、犬1匹
山本 佳奈子 氏
祖父が創業した包装資材販売会社の3代目社長。先代(父)の時に、イベント資材や住宅資材を販売するようになるなど事業を拡大。新規事業として防水工事部門を新設し、建築分野にも進出する可能性があったため、大学卒業後は、建築の専門学校に通い、建築コンサルタント会社でアルバイトをしながら、家業を継ぐことを意識する。専門学校卒業後、内装業の会社に就職し、デザインや現場監督など幅広い業務を経験する。男性社会の中で苦労することが多かったがやり甲斐は感じていた。ある時、次期経営者のぞんざいな考えを知りこの会社に未来は無いと感じ、家業を継ぐ決意を固め、30歳の時に父の会社に営業職として入社。社長の娘という立場、社内の人間関係、会社の方向性などの課題に直面しながら、10年間様々な経験を積み重ね、2017年に代表取締役に就任。
家族構成:夫、長女、次女、両親
経営する企業等の情報は、各ホームページにてご確認ください。
山本さんに質問です。
これまでの仕事の中で、転機だったことや決意したことはありますか。
<山本>
建築の専門学校を卒業した後は、アパレルの内装業に就職をし、順調に楽しく過ごしていました。5年ほど経った頃、尊敬する上司が次期社長候補だと知り、その上司に「社長として、会社の方向性やビジョンは考えているのですか?」とワクワクしながら尋ねました。ところが、「そんなもの何もないし、分からないよ」と言われてしまい、とてもがっかりしました。その言葉がきっかけで、自分のことや居場所について深く考えるようになり、家業を継ぐという自分の使命を思い出したのです。この会社は、私にとって一生過ごす場所ではないなと思い、父の会社に入社することにしました。
<内田>
それはショックでしたね。でも、そのおかげで、ご自身の使命に気づくことができて良かったですよね。”自分の使命”や”自分に向いている本当の場所”に気づける人は少ないですよね。
では、お父様の会社に入社後、仕事上で意識して取り組んだことがあれば教えてください。
<山本>
社長の娘という立場から、社員からは色眼鏡で見られることを覚悟していました。そこで、まずは社員の方々を知ろうと、すべての業務に同行させてもらうようお願いしました。電話対応や工事発注の入力作業から始まり、4人の営業担当者に同行し、仕事内容を学びながら、一人一人に興味を持つように心掛けました。さらに、自社の製品について深く知るため、新規の飛び込み営業にも積極的に挑戦しました。
仕事を通して、会社のことや社員のことを理解していくうちに、少しずつ認められるようになったと感じることが増えました。この経験から、相手とのコミュニケーションを図るためには、自分がまず相手の世界に飛び込むことが大切だと学びました。
石田さんに質問です。
事務職から現場栄養士への異動の際、苦労したことはありますか。
また、それをどのように乗り越えましたか。
<石田>
事務職から現場の栄養士に異動し、全く初めての仕事に苦労しました。上司や先輩の指導もなく、過去の資料を参考にしながら、先輩のやり方を観察して学ぶ日々でした。「栄養士として何もできていない」と指摘されたこともあり、とても辛かったです。現場では、年上の先輩たちに指示を出す立場でしたが、新米の私に対しては聞く耳を持たない方も多く、悩みは深まりました。
そこで、「今の知識では納得させるのは無理。開き直って聞くしかない」と決意し、一人一人の意見を聞くことから始めました。周囲の誤解を防ぐため、みんなに聞いて回ることを宣言し、積極的に意見交換を行いました。意見を聞いた後は、自分でも調べて確認した上で、責任を持って指示を出すようにしました。失敗もありましたが、次第に意見をもらえるようになり、私を育てようという雰囲気が生まれてきました。そうした積み重ねの結果、かつては「さいたま市で一番良くない」と言われていた職場が、県の学校給食のコンテストで表彰されるまでに改善されました。このコンテストは、栄養士が献立を作り、調理員が時間内に調理をするというチームワークが試されるもので、日々の努力が実を結んだ瞬間でした。
<内田>
それは素晴らしいですね。さいたま市で一番良くないと言われていた職場がなぜ表彰されるまでに変化したのでしょうか。
<石田>
当初、調理員の方々はコンテストに興味を示しませんでしたが、日々の質問と意見交換を通して、自ら考え行動するようになり、コンテストへの参加を決めました。見事表彰を受け学校に戻ると、生徒たちが「うちの学校の給食が県で一番おいしいんだって!」と喜んでくれました。これは、調理員の方々の自信と誇りに繋がったと感じています。毎日、諦めずに意見を求め続けたことで、確かな変化を生み出すことができた、忘れられない経験です。
山本さんに質問です。
10年間、営業同行やヒアリングの下積みをコツコツされてきましたが、
社長就任以前から改善したいと思っていたことはありますか。
<山本>
当時の会社は、3つの部門に分かれており、部門ごとに売上と利益が評価される体制でした。私は同行営業を通して、他の部門の繋がりがあまりないことに気づき、「共に頑張れる仲間としての横の繋がりを作りたい」と考えました。
そこで、各部門の会議に参加させてもらうようお願いし、それぞれの会議に出席するようにしました。さらに、営業会議は、単に数字の報告をするだけでなく、問題点や今後の展望について話し合う場に変えました。会社の未来に向けて動くような会議となり、営業成績にも良い変化が現れ、コロナ禍でも目標を達成することができました。また、総務や業務部門との横の繋がりも生まれ、女性同士ならではの長年の違和感も解消されるなど、思わぬ相乗効果もありました。
<内田>
横の繋がりを重視し、数字だけでなく会社の未来を考える会議に変えたことで、チーム力が向上し、業績アップという結果に繋がりました。これは大きな業務改善の成果と言えますね。
石田さんに質問です。
仕事と子育ての両立をどのようにしていますか。
また、キャリアアップしていくために取り入れた工夫はありますか。
<石田>
私は母を早くに亡くし、夫の両親も遠方に住んでいたため、子育てでは周りの助けを積極的に活用してきました。「こうしなければいけない」という固定概念にとらわれず、柔軟に対応してきたことも大きかったと思います。例えば、7つの保育園に登録し、時間休を利用して預け替えたり、ママ友同士で協力して子育てをしていました。料理が得意な私は食事作りに集中し、他のママ友は子供たちと遊んでくれたり、お風呂に入れたり、食器を洗ってくれたりと、助け合いながら大変な時期を乗り越えました。特に印象に残っているのは、ドイツ式の寝かしつけです。先輩ママから、ドイツでは1歳8か月になると子供を一人で寝かせていると聞き、私も実践してみました。
キャリアについて考え始めた頃、読書を習慣化しました。じっくり読むというより、例えば洗面所に本を置いて、髪を乾かしながら読書をするような、日常の中に読書の仕掛けを組込み、短時間で多くの知識を得る工夫をしました。また、10歳くらい年上のメンターのような方が2人おり、その方々の挑戦する姿や、子育てをしながら結果を出していく姿を見ることで、「10年後こんなふうになれるんだ」と安心して自分の道を進んで良いという気持ちになれました。
山本さんに質問です。
社長(お父様)と従業員の間で難しい立場だったと思いますが、
どのようなコミュニケーションをしましたか。
<山本>
父は新しいことを始める際、成果を出してから報告するタイプでした。柔軟で行動力があることは良い面ですが、一人で決断し、実行してしまうため、社員は少し距離を感じてしまうのではないかと私は思っていました。父を完全に否定することは会社全体の構造を変えることになるため、社員の前で父を否定するようなことはしませんでした。しかし、私は父とは違うということを知って欲しかったため、社員と一緒に動くことを選びました。
代表になった際も、「私は一人では何もできません。みんなの会社にしたい」と宣言し、社員との協調を重視しました。当時、私は会社で最年少でしたので、何事にも相談して進めることを意識し、面談の際には、相手によって話し方を変えました。ベテランの社員には、「助けてください」「知恵を貸してください」とお願いをし、少し年上の社員には「頼りにしています」「未来を一緒に作りたい」と信頼を伝えました。
私は、全社員と年に3回面談することを宣言しており、面談中は自分の思いを伝え過ぎずに、相手の話を聞くことを心掛けています。その場で答えられない場合や言い合いになりそうな場合は、一度持ち帰り、互いに冷静になってから答えを出し、全員が納得できる形で進めるようにしています。これは、みんなで会社を良くしていきたいという思いからの行動であり、社員も納得してくれていると感じています。
<内田>
面談を重ねる中で、何か気づいたことなどはありますか。
<山本>
多様な社員がいますが、みんな「評価されたい」「認められたい」という気持ちを持っていることに気づきました。社員の言葉の中に、どんなことを認められたいのかという気持ちが隠れていることに気づき、時には「もっと見てほしい」というSOSを発信しているかもしれません。見落とさないように、一人一人の言葉に耳を傾け、個性を認め合うようなコミュニケーションを心掛けることで、社員の定着率も高まるのではないかと考えています。
ストレスがかかりやすい状況で、どのように自分のメンタルケアを行っていますか。
また、日頃から意識している、メンタルの習慣や考え方、おすすめの方法があれば教えてください。
<石田>
健康のために、水は最低2リットル飲むように心掛けています。身体の60%は水でできていると言われているので、水は非常に重要です。また、栄養バランスの取れた食事も大切です。疲れている時は甘いものに頼りがちですが、野菜をたくさん食べ、よく噛んで食べることで、体が楽になります。忙しい時は、食事をよく噛まず飲むように食べる人が多いですが、1回に30回噛むことを意識してみてください。
<山本>
仕事モードのスイッチを完全にオフにするため、毎日寝る前に15分から30分、何も考えない時間を作っています。その時間を使って、その日あったイライラや仕事でモヤモヤしたことを整理することで、冷静に問題を捉え直したり、解決策を見つけたりすることができ、次の日に活かすようにしています。
応援メッセージ
<石田>
私は現場で試行錯誤を繰り返しながら管理職としての役割を模索してきました。完璧を目指すのではなく、学びながら前に進むことを大切にし、失敗も成長の糧だと考えてきました。女性ならではの視点や強みを生かし、自分らしいリーダーシップを築いていきたいと思っています。女性たちの挑戦が、次の世代の女性たちの道を切り開くことにつながることを信じています。目の前の仕事を楽しんで、一緒に頑張っていきましょう!
<山本>
皆さんも職場では様々な経験をしていると思います。こうして学びの場に来て成長したいと願う皆さん、本当に素晴らしいです。働き方改革や人材難など、これからも新しい課題は出てくるでしょう。そんな時は一人で悩まず、外に出ていろいろな人と話をしてみてください。
私は社員に、10年後のビジョンを聞きながら、会社の10年ビジョンを作っています。職種や働き方が変わっても、働き続けられるような居場所を提供したいと考えています。10年は遠い未来のように思えますが、人生の長い時間、仕事に費やすのであれば、楽しく過ごしたいですよね。皆さんもぜひ、10年後の自分を想像してみてください。きっとワクワクするようなアイデアが生まれるかもしれません。これからも皆さんと一緒に、様々な課題に挑戦し、新しい価値観を見つけていきたいと思います。本日はありがとうございました。