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掲載日:2023年1月16日

環境科学国際センターにおけるPM2.5への取組

この記事は平成25年に執筆したものです。

<目次>

1.微小粒子状物質PM2.5とは

大気中に浮遊する粒子状物質(Particulate Matter)のうち、粒径が2.5 µm以下のものを指します。ただ、全ての粒子が球形をしている訳ではありませんので、直径2.5 µmの球形粒子と同じ動きをする粒子(空気動力学粒径といいます)の50%が通り抜ける装置(分級器)を通過して、専用のろ紙上に集められたものをPM2.5と呼びます。一般には、図1のような装置を通過した粒子をPM2.5として扱います。図2はスギ花粉、黄砂及びPM2.5の電子顕微鏡写真ですが、PM2.5そのものは肉眼では見ることのできない非常に小さな粒子で、呼吸とともに肺の深部に到達して、健康に悪影響を及ぼすことが指摘されています。

PM2.5分級器(WINSインパクター)

     図1 PM2.5分級器(WINSインパクター)

様々な粒子の電子顕微鏡写真
                                                                         図2 様々な粒子の電子顕微鏡写真
                         (左側3枚は同倍率で撮影したスギ花粉、黄砂粒子、PM2.5、右端はPM2.5を高倍率で撮影したもの)

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2.PM2.5の測定方法

わが国では、環境省により定められた測定方法(標準測定法)にしたがってPM2.5を測定しています。標準測定法には、測定原理が最も基本的で、機械的な測定誤差が少ないことから、大気を吸引して、ろ紙上に微粒子を捕集する方法(フィルター捕集-質量法)が採用されています。具体的には、空気を捕集装置(図3左)で吸引(24時間で24 立方メートル)してPM2.5を規格の定められたろ紙上に捕集し、このろ紙を天秤で重さを測ってPM2.5濃度(質量濃度)を求めます。この質量濃度は単位体積中のPM2.5の重さをµg/立方メートル(µ:マイクロは100万分の1)の単位で表します。

しかし、標準測定法は、労力がかかることに加えて、ある程度の捕集時間が必要であり、分析までに時間を要することなどから、日常的な監視などには向いていません。そこで、一日の平均値として標準測定法と同等の濃度が得られることを環境省に認証された自動測定機(図3右)を用いる測定法(等価測定法)が、全国の自治体による常時監視等の測定に利用されています。なお、自動測定器によって得られる1時間値は精度面の理由から参考値として扱われます。

PM2.5捕集装置(左)と自動測定機(右)の写真

                                         図3 PM2.5捕集装置(左)と自動測定機(右)

なお、標準測定法では、ろ紙(図4)は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製のものを用いますが、重さを測る部屋の温度、湿度によって値が変わってしまうので、PM2.5捕集前と捕集後に、温度21.5±1.5℃、相対湿度35±5%の状態で24時間静置し、1µgの単位まで量れる精密電子天秤(図5)で重さを測定します。 

PM2.5捕集前後のろ紙と精密電子天秤の写真

                       図4 PM2.5捕集前後のろ紙                                          図5 精密電子天秤

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3.埼玉県の実態

環境科学国際センター(埼玉県加須市)での長期観測結果

当センターでは、2000年よりPM2.5の1週間単位の成分の測定を通年で実施してきました。1週間単位のPM2.5の質量濃度の推移は図6のとおりです。(揮発性成分の減少により1日単位の測定値より低くなる可能性と、秤量時の湿度条件の相違により高くなる可能性などが考えられますが、1日単位の測定値から計算した値とほとんど差がないことを確認しています)。PM2.5濃度には緩やかな減少傾向が見られます。2011年度は、PM2.5の環境基準値(年平均値)である15µg/立方メートルをやや上回るレベルでした。

埼玉県加須市におけるPM2.5質量濃度の推移を表したグラフの図

                               図6 PM2.5質量濃度の推移(埼玉県加須市)〔赤線は各年度の年平均値、1週間連続採取により測定〕

さらに当センターでは、PM2.5の発生源を明らかにして対策に役立たせるため、ろ紙上に捕集したPM2.5の成分を詳しく調査しています。分析している成分は、ナトリウムイオン(Na+)、アンモニウムイオン(NH4+)、カリウムイオン(K+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)、塩化物イオン(Cl-)、硝酸イオン(NO3-)、硫酸イオン(SO42-)などの水溶性イオンと、有機炭素(OC)、元素状炭素(EC)です。これらのうち、アンモニアガスと反応しアンモニウム塩として存在することが知られているCl-、NO3-、SO42-の濃度変化を図7に示しました。通常はCl-、NO3-、SO42-、NH4+、OC、ECの合計でPM2.5の質量の7~8割程度を占めることが分かっています。

Cl-、NO3-は気温の低い冬季を中心に濃度が高くなり、気温の高い夏季に減少する傾向が見られますが、SO42-は冬季は低濃度で、夏季に濃度が高くなる傾向が見られます。これらの成分は、気体として大気中に排出されたものが、大気中の化学反応などで粒子化する、二次生成粒子として知られています。これに対して、ディーゼル車や工場などから排出される微粒子は、最初から粒子として排出されるため、一次粒子と呼ばれます。これまでの自動車や工場・事業場への規制強化によって、一次粒子には明瞭な減少傾向が見られています。

二次粒子の中でもCl-やNO3-には減少傾向が見られます。これは、これまでの焼却炉や自動車排ガスの規制によって、塩化水素(HCl)や窒素酸化物(NOx)が減少したためと考えられます。SO42-は主に燃料中に含まれる硫黄分からできた硫黄酸化物(SOx)が、更に酸化されてできると考えられますが、火山や海洋などの自然由来のものもあります。県内でSO42-濃度が夏に高くなるのは、光化学反応によって、SOxからSO42-への酸化が促進されるためと考えられます。夏の光化学反応が盛んな時には、このような二次生成粒子とともに、オゾン(O3)が高濃度になり、光化学大気汚染(そのほとんどがO3である光化学オキシダント濃度が基準値を超えると光化学スモッグ注意報が発令されます)が発生しています。

なお、Cl-、NO3-、SO42-は空気中のアンモニア(NH3)と化学反応し、アンモニウム塩として粒子化することが知られています。Cl-、NO3-は気温が低いときはアンモニウム塩(粒子)として存在しますが、気温が高い時は粒子化しにくいため、主に夏季は日中にフィルター上から揮発しやすくなります。特に1週間のサンプリングではこの影響を受けやすくなります。

PM2.5中の水溶性イオン濃度の推移を表したグラフの図

        図7 PM2.5中の水溶性イオン濃度の推移(図中の縦線は1月1日を示す)

このように、PM2.5の成分は季節によっても異なり、また様々な発生源の影響を受けることが分かります。

図8に、2009年4月から2011年3月までの間に、一日単位の捕集で得られたPM2.5質量濃度が35μg/立方メートルを超えた月別日数を示します。10月から2月にかけて日数が多く、夏季には少ないことが分かります。

日単位(24時間)捕集したPM2.5のうち35µg/立方メートルを超えた日数の月別分布を表した図

                   図8 日単位(24時間)捕集したPM2.5のうち35µg/立方メートルを超えた日数の月別分布
(*2011年度は4月と1月に恒温恒湿室、天秤等の故障により測定日数が少ない)

日単位で採取したPM2.5に含まれる硫酸イオン(SO42-)の推移を2011年、2012年と比較したものが図9です。2013年の2月上旬までは大きな濃度増加が見られていないことが分かります。

PM2.5中の硫酸塩エアロゾル〔硫酸イオン(SO42-)として分析〕濃度を表したグラフの図

                   図9PM2.5中の硫酸塩エアロゾル〔硫酸イオン(SO42-)として分析〕濃度

埼玉県内のPM2.5の状況

質量濃度:埼玉県ホームページで県内測定地点の一日平均濃度を知ることができます。

http://www.pref.saitama.lg.jp/a0504/pm25.html

また、測定局の1時間ごとの最新データ(ただし参考値)をはじめ、過去の測定データは、埼玉県大気汚染常時監視システムで見ることができます(埼玉県環境部大気環境課)

http://www.taiki-kansi.pref.saitama.lg.jp/

化学成分:県では、平成23年度から、県内3地点で季節ごとに24時間単位の採取を2週間ずつ行ってPM2.5の成分を分析しています。このうち、秤量によるPM2.5濃度の測定と化学成分分析を当センターで実施しています。図10は平成23年度の結果を示したものですが、調査を行なった期間では、秋の濃度が高いことが分かります。また、図10の下段は、秋のPM2.5の主要成分を示したものですが、最も多い成分は有機エアロゾル(OA)であることが分かります。

PM2.5の測定結果(上段:PM2.5質量濃度、下段:主要成分濃度)のグラフの図

                      図10 PM2.5の測定結果(上段:PM2.5質量濃度、下段:主要成分濃度)
                 (図中のOAは有機エアロゾル(有機炭素の分析値に1.6を乗じた値)を示す。

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4.実態解明や対策に向けた取組

PM2.5の発生源には人為起源と自然起源があり、また、生成のメカニズムが異なる一次粒子と二次生成粒子があるため、大気中での挙動は複雑です。また、大陸規模の大きな風の流れや海陸風などの地域的な風の流れ、冬季に起こりやすい逆転層や気温・湿度の影響など、様々な気象条件の影響によりPM2.5の濃度やその地域分布が変わります。このため、自治体を越えて広域的にPM2.5の実態を把握することが必要です。さらに、PM2.5への対策を進めるために、発生源を推定したり、大気シミュレーションによる予測・再現精度を高めたりすることが必要です。当センターでは国内の大学や研究機関と連携して共同研究に参画し、こうした課題に取り組んでいます。

これまでに参画している共同研究には以下のようなものがあります。

  • 関東地方大気環境対策推進連絡会浮遊粒子状物質調査
    (関東甲信静1都9県7市の自治体によるPM2.5の合同調査)
  • 「関東地方における微小粒子の観測とモデリング」(Fine Aerosol Measurement and Modeling in KantoArea;FAMIKA)(国立環境研究所・電力中央研究所・群馬県衛生環境研究所などとの共同研究)
    ※参考研究成果についての国立環境研究所による記者発表
  • 「わが国都市部のPM2.5に対する大気質モデルの妥当性と予測誤差の評価」(環境省環境研究総合推進費)(代表機関:電力中央研究所、分担機関として参画、平成22~24年度)
  • 環境省環境研究総合推進費「全国の環境研究機関の有機的連携によるPM2.5汚染の実態解明と発生源寄与評価」(代表機関:国立環境研究所、協力機関として参画、平成23~25年度)
  • PM2.5と光化学オキシダントに関する全国の地方環境研究所と国立環境研究所との共同研究
  • 関東における粒子状物質削減のための動態解明(国立環境研究所との共同研究)

※参考 環境省環境研究総合推進費の概要や課題一覧
          地方環境研究所と国立環境研究所の共同研究の課題一覧

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5.当センターで現在取り組んでいる研究

バイオマス燃焼や二次生成由来のPM2.5の解明

PM2.5の研究課題として、PM2.5やその原因物質の排出状況の把握、大気中の挙動や二次生成メカニズムの解明が挙げられています。特にPM2.5中の有機成分の起源は多種多様ですが、大別すると化石燃料やバイオマスの燃焼により排出される一次粒子と、気体が大気中での反応により粒子化した二次生成粒子があります。バイオマスとは、紙や木材、木炭、食品や農畜産廃棄物など、動植物に由来するもの全般を指します。当センターの測定結果では、PM2.5濃度は秋季から冬季に濃度が高くなる傾向が見られますが、この原因の一つに田園地域で収穫期以降に頻繁に見られる枯れ草等のバイオマス燃焼(図11参照)による影響が挙げられます。また、埼玉県では夏季に光化学スモッグが頻繁に発生するため、光化学反応によって二次生成するPM2.5が多く存在すると考えられます。そこで、バイオマス由来や二次生成由来のPM2.5の挙動や寄与を解明するため、バイオマス燃焼起源の指標であるレボグルコサンという物質や、二次生成の指標である水溶性有機炭素(WSOC)について、測定・解析手法の検討や測定データの蓄積などの基礎的な研究を進めています。

田園地域で見られるバイオマス燃焼している様子の写真

     図11 田園地域で見られるバイオマス燃焼

サブミクロン粒子(PM1)に着目したPM2.5の解明

大気中を浮遊する粒子状物質の粒径分布(図12)から分かるように、PM2.5の大部分は人為起源の粒子ですが、自然由来の粒子の一部が含まれています。一方、粒径1µm以下の粒子(PM1)中には自然起源の粒子がほとんど含まれないことから、人為由来の粒子のみを調べるために適しています。

当センターでは、2005年から、図13の装置を用いてPM1の通年測定を行っています。PM1の質量濃度だけでなく、成分分析を継続的に行っているのは国内では当センターのみで、これらの分析を開始してから8年になります。

成分を調べると、PM2.5に含まれる成分のうち、土壌などの自然由来の成分がほとんど検出されず、PM2.5の8割以上がPM1として存在することが分かりました。

大気中を浮遊する粒子状物質の分布を表したグラフ、PM1採取装置の写真

                 図12 大気中を浮遊する粒子状物質の分布                                 図13 PM1採取装置

越境大気汚染現象の解明のための国際共同研究

越境大気汚染現象を明らかにするためには、複数の地点で試料を採取し、その成分を詳細に明らかにする必要があります。当センターでは2009年から中国上海市、2012年から中国北京市、2013年から韓国済州島でPM1、PM2.5の同時採取を開始しました。また、夏季には富士山頂測候所を活用して同様の試料採取を行っています(図14)。富士山頂は地域汚染の影響を受けにくい自由対流圏に位置しており、長距離輸送された成分を調べるのに適しています。昨年までに実施した、これまでの研究(上海市*1、富士山頂*2、新宿区*3、加須市)で、中国で採取したPM1の濃度差以上に、いくつかの種類の金属成分濃度が高いことが分かっています。2013年1月に北京市で深刻な大気汚染が見られた際にも、本共同研究による試料採取を実施しており、今後成分の分析を進めていきます。

中国、韓国及び富士山頂での同時試料採取地を表した地図

                                       図14 中国、韓国および富士山頂での同時試料採取
*1 上海大学、*2 NPO法人富士山頂測候所を活用する会、*3 早稲田大学の協力の下に実施しました。

これまでに得られた研究成果については、学会誌への論文や口頭での発表、講演会など様々な形で公表しています。
このうち、当センターで作成したものは、以下からダウンロードできます。

研究成果情報(リポジトリ)

環境科学国際センター報、環境科学国際センター講演会要旨

お問い合わせ

環境部 環境科学国際センター 研究推進室 大気環境担当

郵便番号347-0115 埼玉県加須市上種足914 埼玉県環境科学国際センター

ファックス:0480-70-2031

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