インタビュー・コラム

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掲載日:2026年1月15日

弘瀬 牧子(ひろせ まきこ)さん

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プロフィール

24年間障がい者福祉施設に従事した後、2023年に株式会社ハミングバードを設立。
「私はいま、わたしにできることをしている。それがわたしのハミングバード」を経営理念に、主に高齢者や障害のある方などの通院や外出を手伝うケアのできる介護タクシーを運行。
志木市在住、52歳。

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民間企業から転職し、福祉一筋24年からの起業

私は24年間、障害者福祉施設で勤務してきました。私の福祉への道は26歳で無資格で障害者福祉施設に飛び込んだことが始まりです。子供の頃、保健室の先生になりたかった

のですが、働き始めてすぐに「これが天職だ」と思いました。仕事をしていくには必要だと考え、介護福祉士も含め資格を13個取得しました。

福祉施設では、現場から施設長まで経験し、その間に得た知識や資格、コミュニケーション能力、行動力、探究心と持ち前の明るさが現在の仕事に大いに役立っています。福祉の制度を熟知していることはもちろん、利用者様との対話やご家族、医療・介護関係者との連携に活かされていると感じます。

50歳を迎えたとき、「自分にできることを自分らしく、笑顔で楽しくやりたい」と強く思い、その想いを形にするために起業を決意しました。

神話に「ハチドリのひとしずく」という話があります。森の中で火事が起きた時に一羽のハチドリが小さいくちばしで何度も水を運んで火を消そうとする話です。ほかの動物たちはそんなことは無駄だと言うのですが、そのハチドリは「自分ができることをやっているだけだよ」と答えるんです。そのハチドリと自分の姿がぴったり重なったので、会社名を「ハミングバード」(ハミングバード:ハチドリのこと)としました。自分の想いや運営方針とぴったり一致していると確信しています。

起業にあたっては、行政の支援を活用しました。まず、市役所で開催されていた「埼玉県よろず支援拠点(公益財団法人埼玉県産業振興公社)」(経営なんでも相談所)を利用し、そこで小規模事業者持続化補助金の存在と申請手続きを教えてもらいました。また、創業・ベンチャー支援センター埼玉の講座を、起業した後になってしまいましたが受講しました。そこで、計画書の作成方法を教わったのですが、自分が以前サポートなしで作った計画書が教わったとおりだったので、とても安心しました。

ただの移動じゃない、心に寄り添う介護タクシー

ハミングバードはケアのできる介護タクシーとして、主に高齢者や障害をお持ちの方など、公共交通機関の利用が困難な方のために、通院や外出、お買い物といった多様なニーズに対応しています。お客様一人一人の希望を丁寧に伺い、オーダーメイドの送迎や付き添いサービスを提供しています。

介護タクシーの利用目的としては、やはり通院が最も多いです。また近年は付き添いの依頼も増えています。付き添いでは、完全にご家族と同じように利用者様のお隣にいて、主治医の話を聞くことまでやります。

特に近年増えているのは、単身高齢者や老々介護のご家庭でのご利用です。中には聴力が低下していたり、認知症の初期症状が見られる方もいて、薬の説明が理解しづらい場合があります。そうした際には、私が医師やスタッフの話をしっかり聞き取り、わかりやすく整理してご本人やご家族、介護施設のスタッフに伝えるようにしています。

このような支援は、単なる送迎サービスの枠を超えていると思います。それは、私が以前障害者福祉施設で働いていた経験が大いに活かされており、それが今の強みとなっています。認知症の方は、病院に来たことも忘れてしまう場面もありますが、私が穏やかに会話を楽しみながら対応できるので、利用者様の安心感につながっていると思います。

同業者の多くはハイエースやキャラバンなど大型車を使っていますが、私はあえてミニバンを選んでいます。大型車はストレッチャーにも対応できますが、運転席から後ろまで距離があり、私にとってはお客様の様子が見えづらいのが気になります。病気をお持ちの方を運ぶ以上、何かあった時にすぐ対応できることが重要だと感じているからです。自分が乗る立場で考えてみても、運転手が遠くて見えにくいのは不安だと思います。

お客様に少しでも快適に過ごしていただくことを大切にしており、車椅子はもちろんのこと、車のシートも乗り心地がいい物にしています。

ですから、他社の車を利用していたお客様が「ハミングバードの車は乗り心地が良いし、運転も安心できる」と言って乗り換えてくださることも増えています。

予約制にしているのは、常によいサービスを提供したいからです。急いで動くと心に余裕がなくなり、サービスの質にも影響します。自身の表情や言葉のニュアンスは、利用者様にも敏感に伝わりますので、日々自分の心身の状態をコントロールし、笑顔と落ち着いた態度で接することを心掛けています。

ハミングバードのケアのできる介護タクシーは単なる移動手段だけでなく、利用者様の生活の質を支える総合的なケアサービスの提供を目指しています。これからも、一人一人に寄り添った安心で温かいサービスを提供し続けていきたいと思っています。
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起業の喜びと苦労

ケアタクシー「ハミングバード」を起業して一番嬉しいのは、お客様から「弘瀬さんが良いわ」と言っていただけることです。 「弘瀬さんといると元気をもらえるし、安心してお願いできる」とのお言葉をいただくと、起業して本当に良かったと心から思います。

しかし、その一方で起業当初の苦労は想像以上でした。福祉現場に長くいた私にとって、介護タクシーというサービスは当然知られていると思い込んでいたことが大きな誤算でした。実際には、地域の方々に「ハミングバード」や私の存在を知ってもらうことが非常に難しく、集客に苦労しました。電話も鳴らず、メールも来ない日が続き、正直「本当にやっていけるのか」と焦ることもありました。

しかし、「今は種まきの時期」と自分に言い聞かせ、諦めずコツコツとできることを続けました。ホームページを自分で作成し、チラシのレイアウトも自分で手がけました。印刷だけは業者にお願いしましたが、費用を切り詰めつつ、暇な時はひたすら地域のポスティングを行いました。一軒一軒、自分の足で歩いて地域の状況を見極め、高齢者が多いエリアや単身高齢者が多そうな地区を中心にチラシを配布しました。

こうした地道な活動は、単なる宣伝だけでなく、地域を知るという点で大きな意味がありました。自分の足で回ることで、地域の方々の暮らしやニーズを肌で感じられ、その情報は今のサービスに活かせています。種まきの時期は忍耐も必要ですが、やがてその努力が花を咲かせると信じています。

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起業を目指す女性に向けてメッセージ

女性が起業することには、たくさんの勇気と覚悟がいります。私も以前は長く安定した仕事に就いていて、起業への一歩を踏み出す勇気がなく、ずっと迷っていました。失敗したらどうなるのか、生活はどう支えていけばいいのか、不安が尽きませんでした。でも、たとえ失敗しても「やらずに後悔するよりはやってみよう」と思い切って腹をくくりました。その決断が、今の充実した日々につながっています。

起業は自分の想いと直感を信じて、前に進むことが大切です。怖くて一歩が踏み出せなくても、まずは小さな「歩み」から始めてみてください。変化が怖いと感じても、同じ場所に留まることは心の疲弊を招くだけです。年齢も経験も関係ありません。

私は50歳で起業しましたが、「もう遅い」と思う必要はありません。起業には「今」が一番のタイミングです。勇気がなくて躊躇している女性に、まだ可能性は無限にあることを伝えたいです。自分にできることを、少しずつやってみること。それが始まりです。起業家は孤独になりやすいですが、同じ志を持つ仲間がいれば心強いものです。

自分の気持ちを大切にしてください。自分の人生は自分だけのもの。やりたいことに挑戦し、悔いのない日々を送りましょう。たとえ起業がうまくいかなくても、それは貴重な経験であり次への糧になります。

私はこれからも地域に根ざし、私なりのやり方でケアのできる介護タクシーを続けていきます。肩肘張らず、等身大の自分で挑戦するその姿が、周りの女性たちにも勇気を与えることを信じています。起業にはいろいろな形があり、成功の定義も人それぞれです。だからこそ、それぞれの道を一歩ずつ進んでいくことが大切です。私はみなさんの応援団であり、相談相手であり、仲間です。共に励まし合い、やりたいことを諦めずに進みましょう。一緒に頑張りましょう!

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