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発表日:2022年7月19日11時
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部局名:環境部
課所名:環境科学国際センター
担当名:水環境担当
担当者名:渡邊
直通電話番号:0480-73-8353
Email:g738331@pref.saitama.lg.jp
環境科学国際センターでは、水環境の保全を図るため、河川に生息している細菌を分離し、それらの特徴を明らかにすることで、それらが自然環境中の有機物、窒素やリンの循環にどのような役割を担っているのかを調査しています。その調査の過程において、県内の河川から新たな細菌2種を発見しました。このたび、理化学研究所及び茨城県霞ケ浦環境科学センターとの共同研究で新種の提案を行なったところ、「国際原核生物分類命名委員会(ICSP: International Committee on Systematic of Prokaryotes)」により新種として認定されました。
(1) フラボバクテリウムアンモニフィカンス(Flavobacterium ammonificans)
(2) フラボバクテリウムアンモニイジェネス(Flavobacterium ammoniigenese)
※新種細菌の命名権は発見者にあるため、環境科学国際センターで新たに命名しました。
(1) 県内河川に最も多く見られるグループ(優占種)に属しています。
(2) 有機態窒素(例えばアミノ酸)をアンモニウムに変換する能力(アンモニア化)を有します。
将来的に細菌を介した窒素循環注1のしくみが明らかになり、得られた知見を基に、水質汚濁原因の究明や水質浄化対策の基盤情報につながることが期待されます。
※この研究成果は、学術誌「International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology」注2に3月28日付で掲載されました。
1 研究の背景と目的
地球上に生息する原核生物(主に細菌)の数は、およそ1030個のオーダーではないかといわれています。県内河川では、河川水1ミリリットル中に平均して100万個(106個)のオーダーの細菌が観察されます。これらの細菌は、有機汚濁原因物質(環境基準ではBODやCODという水質指標で表される)の分解や、富栄養化の原因となる窒素やリンの輸送や変質に重要な役割を担っています。しかし、自然環境中に生息するほとんどの細菌は、有機物、窒素やリンとどのような関係があるのかほとんどわかっていません。
国連は、持続可能な開発目標(SDGs)の基礎として、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)という「安定した地球で人類が安全に活動できる範囲」を科学的に定義していますが、窒素とリンの排出量がすでに限界値を超えて危険域に達していると指摘しています。人間活動により河川、湖沼や海洋に排出された窒素やリン成分は、植物や微生物(細菌、菌類や微細藻類など)のみ直接利用することが可能です。したがって、それらが受け止められる窒素やリンの量及びその仕組みを解明することは、持続可能な循環型社会を目指す上で重要な研究テーマの1つです。
2 方法
県北の小山川の新元田橋(本庄市)及び新明橋(深谷市)で水を採取し、ガラス繊維フィルターでろ過しました。細胞の大きさが小さい細菌を狙って、ろ液を寒天培地と呼ばれる細菌の生育に必要な無機塩類(リン酸など)、窒素源(アミノ酸など)やエネルギ-源や炭素源としての有機物(有機酸など)を寒天で固めたものの上に塗り培養しました。培養後、コロニーと呼ばれる細菌の集合体の生理学、化学、形態学及び遺伝学的な特徴を調べ、既存の細菌の特徴と比較しました。
3 結果
既存の細菌の特徴と比較したところ、得られた2菌株がそれぞれ新種であることがわかりました(図1)。
図1.得られた細菌の走査型電子顕微鏡写真。ホワイトバーは1 μm(ミクロン)を示している。
左:Flavobacterium ammonificans SHINM13
右:Flavobacterium ammoniigenese GENT5
これら2菌株は、県内河川の遺伝子を用いた細菌の種の組成解析(菌叢解析)で最も多く検出されるFlavo-A3という系統グループに属していたことから、優占種であると考えられます(図2)。
図2.次世代シーケンサーによる埼玉県内河川15試料の菌叢解析結果。上位10系統グループを示した(未発表データ)。
2菌株はFlavo-A3という系統グループに属している。
また、培養実験の結果より(図3)、この2種の細菌は有機態窒素(アミノ酸など)をアンモニウムに変換する能力(アンモニア化)を有することがわかりました。
以上の結果より、この2種の細菌を“アンモニア化に関与する細菌”及び“アンモニウムを生産する細菌”という意味を込め、
フラボバクテリウムアンモニフィカンス(Flavobacterium ammonificans)
フラボバクテリウムアンモニイジェネス(Flavobacterium ammoniigenese)
とそれぞれ命名しました。
図3.細菌による有機態窒素のアンモニウムへの変換(アンモニア化)。
左:Flavobacterium ammonificans SHINM13
右:Flavobacterium ammoniigenese GENT5
以上の結果より、今回分離に成功した2菌株は、県内の河川に広くたくさん分布しており、有機態窒素(アミノ酸など)をアンモニウムに変換し、生じたアンモニウムは微生物や水生植物に利用されるという窒素の循環(窒素循環)の中で、重要な役割を担っていると考えています。
4 成果の公表
掲載誌: International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
タイトル: Flavobacterium ammonificans sp. nov. and Flavobacterium ammoniigenese sp. nov., ammonifying bacteria isolated from surface river water
(仮訳:河川表層水から分離されたアンモニア化に関与する細菌Flavobacterium ammonificans及びFlavobacterium ammoniigeneseの新種提案)
著者: Keiji Watanabe, Tatsumi Kitamura, Yusuke Ogata, Chie Shindo, Wataru Suda
(渡邊圭司、北村立実、緒方勇亮、進藤智絵、須田亙)
DOI: 10.1099/ijsem.0.005307
アブストラクトURL: https://doi.org/10.1099/ijsem.0.005307
注1)人為起源(日常生活、工業や農業など)や自然起源(雨の中の硝酸など)の窒素は、動植物や微生物などを経て、有機態窒素(タンパク質やアミノ酸など)や無機態窒素(硝酸やアンモニアなど)、また一部は大気窒素として存在形態を変化しながら環境中を循環しています。これを窒素循環と呼びます。水中で窒素が増えすぎると、水質悪化(富栄養化)や健康被害などの問題を引き起こします。
注2)学術誌「International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology」:国際原核生物分類命名委員会の公式雑誌であり、Microbiology Societyが発行している。この雑誌に掲載されると正式な学名として認められる。